TOV黒夢
TOV黒夢 --05
次にキュモールの意識がハッキリして彼が視界に映したのは、照明が薄暗く光を溢す天井だった。
自室の天井だ。深く考えずともそんなことは分かる。
だが、この覚醒に至るまでの、意識の空白が理解できなかった。
キュモールは…そう、女を抱いたはずだった。
誘われるままに押し倒し、そして……
「お目覚めですか?」
記憶を辿っていた彼の耳に届いた女の声に、彼は慌ててその方向に顔を向けようとし、そして自分の体の異常に気付く。
首が、動かないのだ。
「痺れ薬です。動かせませんでしょう?」
女の言葉通り、キュモールは首だけではなく、指一つ動かせない状態だった。
叫ぼうとした喉も呼吸の弱い風を起こしただけで、声帯は震えてくれなかった。
その現実にキュモールは怒りと恐怖を覚えたが、やはりそれを女に伝えるための手段はないのだ。
天井を睨み付けるだけの彼の耳が拾ったのは、くすくすとこぼされる笑い声だった。
「うっかり薬を多く使いそうになっていて、危ない所でした。
この薬、効きすぎたら呼吸のための筋肉も痺れさせてしまうんですもの。」
女の言葉の意味にキュモールは戦慄した。
窒息させられるところだと聞いて、穏やかでいれるはずがない。
『なんのつもりだお前は!僕にこんなことをして無事でいられるとおもうのかい!』
声を紡ごうと必死になるが、声にならない。
もどかしさと苛立ちと、目的を読めない女の行動に不安が深まっていく。
自然と荒くなるキュモールの呼吸だが、助けももちろん呼べないので肺が恐怖で軋むだけだ。
「貴族の貴方にこんな事をして、私は殺されるかもしれませんねぇ。」
『あ、当たり前だろお前みたいな下賎な生き物が―』
「大丈夫。私、死にませんから。」
明るく弾む声に、キュモールは音にならない声を中断した。
「殺されそうになるのなら、何をしたって構いませんよね?
無事に此処へたどり着いた目的を果たしたって構いませんよね?」
『な……何をするつもりだい!?』
声にならない。ただ、漠然とした恐怖が、最悪の事態を想像させる。
即ち、己の死。
「貴方みたいな高貴な人を殺す度胸なんてないわ。安心して。」
欠片も信用できない女の言葉。
女は本当に楽しそうで、それが恐ろしかった。
「12、という数に覚えはあるかしら?」
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2010/10/27
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