26:コンポート





歌を口ずさむことは日常に多々あった
鼻歌でも何でも自分から発するたくさんのメロディが確かにあった

あれ

そういえばここに来てから


私、気楽に歌ってないな。?










26.スイカをコンポートという無謀










案内されるままヴァンさんの元を訪ねると、彼は公爵様に許可を貰ったと前置きをして私を屋敷の外へと連れ出してくれた。
いつも行く図書館みたいな場所かと思ったらちょっと違う。

「はぁー・・・流石、すごい蔵書量ですねぇ。」

薄暗い室内で高い本棚を見上げ、私は正直に感想を述べた。
そんな私の隣で「当然です!ここはバチカルのローレライ教団秘蔵の書庫室です〜ウンニャラ」と、私に付き合ってくれる司書(?)みたいな人が声高に叫ぶ。
ダアトにある、総本山の教会の方がやっぱり冊数は多いらしい。
まぁ、当分は行く気にならないけれど。

「仕分けとかは徹底されていますか?」
「自分が管轄になってからは徹底していますがね、自分がここに配属される前の分が自信ないですねぇ。なんとも多いものですから。
 本の内容を把握するにしたって限度がありますし。古い物は目録すらありませんよ!」

ははは、と笑ってくれるが・・・全然「ははは」じゃないよ・・・
なんたって私が探そうとしているのは、空間とかをワープしてしまうというけったいなものだ。しらみつぶしに探してなんとかなるような気は、まったくしない。
・・・結局やるしかないんだけどね。

「自分が仕分けた分はこの棚からあの、丁度真ん中ぐらいまでですね。」

指差された範囲を眺めて愕然とする。

「ここにある分の半分が未分類・・・!? 嘘・・・嘘だと言って!」
「いやー、ははは。君が調べている間にちょっとでも分類できるかな、と。」

必要性を求めてくる人間に利便性を見出すんじゃありません!

「古いものも一応教会用の資料と文献、伝記などに分かれていますよ。
 自分も手当てを貰えるのでガンガン手伝いますよ。」
「そりゃ心強いですね・・・ここだけの話、私も字があんまり堪能じゃないんですよ。
 自分のことで精一杯なので、そちらの戦力を期待しないで下さい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・それは残念です。」

長い沈黙を経ての返答。
やっぱり私にも手伝わせるつもりだったんだなこの人。
私は私で、手伝ってもらおうと思ってたからおあいこかな。

「運ぶぐらいは手伝いますから、もし私が読めない文字とかあったら教えてもらってもいいですか?」
「それぐらいなら、お安い御用です。」

言って、私達はニヤリと笑顔を浮かべた。
長くなる戦いをともに戦い抜こうという互いの意思が、笑わせたのだ。
互いのメリットを交換条件に協力戦線といこうじゃないですか。



ま ぁ ・・・・・・

協力したって・・・・・・・・・



「・・・一日二日・・・で・・・どうにかなるはずないですよ・・・ね・・・」

低いせいでやけに重い声が、自分の喉から落ちる。
そんな私が顔を伏しているのは床に積み上げていた本の山だ。
私から離れた、入り口に近いテーブルで目録を書いていた教団所属のラウンツさんも机に突っ伏している。
遠い位置にある窓の外を窺い見れば赤い光が見えた。もう夕方なんだろう。
進み具合などは説明しない。


だって、進展が無いんだもの♪


・・・
自分で言ってて鬱になるわー。

異世界へこんにちは! っていうのは、御伽噺や伝説とかにはあった。
このあたりは自分の世界と一緒。そういうファンタジーな話はあるようで。
例えば、第七音師さんがもう一人の第七音師さんと超振動っていうのをおこしてしまって、見知らぬ世界に吹っ飛んで、その世界は存亡の危機に瀕していて、第七音師さん二人が力を合わせてその世界を救う、とか。
本当に人間が吹っ飛ばされる現象があることにびっくりしたよ。
ネビリムさんに聞いていたけど、やっぱり馴染みがない分新鮮だ。

無論、私に世界を救えるような力は無いし・・・どこともなく物が降ってくるようなそんな奇抜な状況は世界を救うことはないだろうし!ははっ!

そしてわざわざ救おうなんてそんな崇高な意思も無い。
この世界は危機になんて瀕していないし、むしろ危機に陥っているのは私自身だ。

なんだこの無意味さは! いじめか!
私の人生を棒に振らせといて、ここで私の命に意味を持たせることも無いなんて!
神様いるなら出てきやがれ!!
互いに正座で向かい合って話してみようじゃないかコンチクショウ!!

「・・・随分、疲れているみたいだな。」

聞こえた声はヴァンさんのものだ。
窓に向いていた顔を上げて入り口に振り返れば、開いたドアのところにいつの間にかヴァンさんが立っていた。

「昼間ぶりですね、ヴァンさん。」
「ヴァン様! わざわざこのようなところに!」

椅子に座ったまま会釈する私とは雲泥の差な態度でラウンツさんは飛び起きた。
苦笑してラウンツさんに座るよう促し、ヴァンさんは私の方へと歩み寄ってくる。

「そろそろ君を屋敷へと送ったほうがいいと思ってな。」
「ここを紹介してもらっただけでも頭が上がりませんのに・・・送りまでヴァンさん自ら、すみません。」
「いや、紹介した分、経過が気になっていたこともある。何か収穫は?」
「・・・聞かないでやってください。」

綺麗な深い青の瞳から視線を外し、私は天井を仰ぎ見た。
ああ、暗いなー。

「そうか・・・まあ、まだ時間はある。そう根を詰めるな。」
「ありがとうございます。」

察してくれたのだろう。優しい労りの言葉に私は若干癒される。人の情けを若干に減らす要因は、この人に対する苦手意識だ。
私がここに持ってきた物は何も無い。帰り支度も簡単なものだ。
脱いで膝にかけていた上着を羽織り直して、私は積み上げたままの本を丁寧に床に並べなおしておく。

「ああ、いいですよ!ヴァン様を待たせないで下さい!」
「ラウンツさん水臭いことをー。」
「きな臭くったって水臭くったって構いませんから、今日は帰っていいです!」

そ、そんなに必死にならなくたっていいじゃないか。
ちょっと寂しさを覚えるぐらい言われて、半ば追い出されるように外に出ることになった。
ラウンツさんいいのか。まだまだまだ、大変ですよあの量は。

・・・ま、彼がいいと言うのだからそれでいいんだろう。

建物を出て身に受けた風は強く、思わずスカートを軽く押さえてしまう。
夕日も夜闇に変わりそうな薄暗い世界は空の色こそ知っているあの世界と変わりはないけれど、その空に浮かぶ石の存在が相変わらずここが私の知らない空間なんだと教えてくれる。
街路灯にちらほらと鈍い灯りが点されるのをぼんやり眺めていたら、隣にいたヴァンさんが視線を向けてきた。

「…不思議な形の街ですね。」

仕方なくそんな話題を選んで彼へ振りながら、歩き出す。

「ああ、かつて譜石が落ちてできた巨大な穴に作られた街だ。自然の要塞になる。」

…ああそうか。要塞だなんて物騒だと思うけど、敵対するマルクトがあるのなら重要な観点だ。
両国は一触即発な関係らしいから、こんな移動が面倒くさそうな街だろうと大事な国の中枢なんだろう。

「世界は広いですね。」
「そうだな、世界は広い。この街も世界のほんの一部でしかないのだからな。
 その歳まで自分の家の近くでしか生活していなかったのなら尚更だろう。」

…なんか察しているくせにこんな言い方するんだ。へーほー。
世間知らずだからそこまで遜色ないけどね。

「尚更ですね。はじめまして世界って感じです。」

正しくは異世界だけど。
階段を上がりながら後ろを振り返り街並みを見下ろせばよくわかる。
夕闇に沈もうとしている見知らぬ街並みに建築物、空を飛ぶのは見たことのない大型の野鳥。
異国…じゃないよねぇ。

「鳥目じゃないのかなぁ?」

思わず呟いた私の言葉を聞いてか、ヴァンさんも私の視線を追いかけてそれを見た。
でっかい鳥だ。やけに低いところを飛んでいるけど、何か獲物でも狙ってるのか?

「あれは…魔物だな。」
「魔物?…こんな街中を飛ぶものなんですか?」

難しい顔をしているヴァンさんの言葉に私までしかめっ面になる。
ケテルブルクで会った狼みたいな魔物以外を見るのは初めてだった。
人を襲ったりするんだよね。

「…あまり良い予感がしないな。急ごう。」
「あ、ハイ。」

向き直って歩みを再開させるヴァンさんを追って私も歩き出す。
彼が覚えた悪い予感が何なのか気になるなぁと考えていたら、ヴァンさんが唐突に振り返ってきた。
そりゃあ私の足だって止まる。

!」
「へ? おわブッ!」

硬直していた私の肩が彼に捕まれたと思った次の瞬間、勢い良く彼の胸に抱き止められた。
胸板硬っ!…なんて言ってらんない。
気のせいじゃなきゃこの人、剣を抜いていた!


 ―ブワサッ!

「ギュワァアァァァァ!」


大きな羽音とけたたましい雄叫びに身が竦み上がる。

「っぅ!」
「ハァ!!」

 ガギィン

ヴァンさんの気合いの掛け声と同時に彼の腕からの衝撃が伝わってきた。

「き 斬ったんですか!?」
「いいや、斬れてはいない。」

羽音が若干離れたところで彼の腕の力が弱まったので、腕を突っぱねて顔を離し空を仰ぎ見る。
そこには私が両腕を広げても足りないぐらいのサイズの怪鳥がいた。

ああぁ!クチバシとか猛禽類のそれと一緒!肉を食べるヤツ!

「お、襲われる心当たりはありますか!?」
「いいや…ない、な。」
「ちなみにもちろん私にもないですよ!」

そんなやり取りをしている間も回りの一般人の方々が叫んでいるが、怪鳥は顔をこっちに向けたままだ。
近寄りがたそうなヴァンさんがいるというのに!
いや、他の人が襲われても気分悪いけど!

「だがアイツは君を ―下がれ!」
「うわわわっ!」

怒鳴られてすぐに私はしゃがみ、彼の足の脇へと移動した。
そして再び聞こえた金属が硬い何かを叩く音に背中が寒くなる。

足場が悪い階段だ。ヴァンさんにも不利だろう。
でも、どう移動すればいいなんか分からない。
彼は私が狙われているといったようなことを言っていた。
上がっても下がっても的になるに決まってる!

「大丈夫だ、私が君を守る。」
「ありがとうございます。
 ところで私は、階段を上ったほうがいいですか?」

流すには勿体無い言葉だが、あえて流させてもらう。
現実問題の解決を考えたいです。
私の反応に一瞬苦笑したヴァンさんだが、すぐに首肯を返してきた。

「せめて上の平坦な場所に移動しよう。
 建物の中に逃げ込めるならそれが一番だ。」
「了解しました!」

返事をしてすぐに私は走り出した。
私を追いかけてくるヴァンさんの足音と一緒に羽音まで近づいてくる。
振り返るなんて愚行はしない。後ろの彼が立ち止まる気配を感じながら私は駆け上る。

なんで、何で私が狙われる!?

狙われることで思い出すのは、ケテルブルクで捕まった群青と黒のコートを着た男達の存在だ。彼らは私が売ったMDの中身をフォンディスクと呼び、そしてその中身を知って私に詰問してきた。
J−POPに何の意味を見出していたのかは分からずじまいだ。
そして残っていたMDも、ネビリム先生の家が焼けてしまったからには残っていない…そういや、ネビリム先生のレプリカさんが浮かせていたディスクがあったな。

あいつらの意図はともかく、それでも魔物という生物が私を狙う理由にはならないだろう。

そもそも私を襲うことで得る益はなんだ。
存在すら不確かな私をどうにかして、意味はあるのか。

・・・思いつくのは、私という穀潰しを養わなくてすむという公爵さんの得だけど。
でも、確か魔物は飼いならせないって聞いた気がする。
そもそもこんな街中で、ヴァンさんという強力な護衛が傍にいる状況で起こす事じゃない。


考えろ。 頑張れ私!


「伏せろ!」


 ― バサ ッ
      バササッ


階段を登りつめた私の耳に届いたのは、ヴァンさんの声と複数の羽音だ。

「はっ ひ、ぐ―ン わあぁぁぁ!!」

言われた通りに屈もうとした私の背中と腹部に衝撃を受けたと思った瞬間に、私の視界が回る。
衝撃をもたらしたそれは見事に私の腹に食い込んでくれていて、そこから激痛が生まれる。痛い痛いいたーい!
意識が焼き切れるような錯覚を覚えていたら、全身に浮遊感が。

!」

ヴァンさんの声が遠くなる!
カッと目を見開いた私が見たのは、魔物と向かい合ったままのヴァンさんや街の人々がこちらを見上げる姿だった。

嘘!冗談でしょ!
ってゆーか、アンタ! 私を守るんじゃなかったの!!

そんな馬鹿なツッコミをしている間にぐんぐんと街並みが遠ざかる。
みるみるうちに眼下は港へと変わった。


私、餌になるのか!?


「わぁぁぁ! ちょ、ちょっと!!」

怖いよ!! こえぇーよ!!

「ギュワァァアァ!!」
「『ぎゅわー』じゃないよ!!」

頭上から響いた魔物の声に怒鳴るが、これに意味がないことだって分かってる!
腹も背中も痛いよ! 中身がでそうだよ!
何なんだ一体!!

「はっ はっ 放せッ!!」


腹に食い込んでいる魔物のツメを握って叫んだ。




  ― ぱ っ




・・・・・・・・・・・・ぱ?


圧迫感からの解放。

そして上昇感の喪失。



どういう意味か、分かるかな?



「本当に放す馬鹿がいるかこのクソ鳥頭あァぁぁぁァぁッ!!!」



ギュワァァァ!



私の罵声に答えるような鳴き声を最後に、私は海面に着水した。

信じられない衝撃に、当然意識は暗転した。













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2010/03/05

 落ちたかと思ったら、落とされたよ!物理的に!


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