23:ハンバーグ





大好きな母だ。
大好きな父だ。
大切な友達だ。

会いたい。

会って全ての感情を吐き出したい。

私は強くないんだ。
強くなりたいけど私は弱い。

そんな私を奮い立たせるのは意地と虚栄。

誰かにすがることもできない。
すがるなんて選択肢を持つことも考えられない。



戦うだけの能力は確かにこの手に。










23.ハンバーグ成形中に消えた指輪…期せずして迎えるラヴストーリィ!!










「目を覚ましたようだな。」

目を開けた私が見たのは天井で。
覚醒した私の耳に届いたのはアルト系の渋い声だった。



 ・・・誰だ。



「・・・あー・・・はい。確りと確かに起きています。
 私、こう見えても一応女のつもりなんですが、不躾なあなた様はどなたでしょう?」

言いながら寝ていたベットの端に体を起こした私の視界には、一人の男性が立っていた。
ちなみに言うと、私はあの後、再びどこぞの部屋に押し込まれていたのだけど。

私の返事もないまま入ってきていた彼は、茶味がかった灰色の髪に青い瞳、髪をおもいきって一つに括りあげている顔は中々整っている。鍛えているのかその体もがっしりとしていた。
けど髭が。髭がちょっといただけない。
その髭のせいで随分と上の年代の方のように見えるけど、多分若い人なんだろう。

「いくら呼んでも返事がなかったのでな。
 失礼とは思ったが入らせてもらった。」
「あら、それは失礼。」

一応詫びを入れ、一度彼から視線を泳がせた私は軽く目元を擦った。
怒涛の勢いで騒々しかったあの一件をやり過ごして、疲れてたのよ。
いいじゃない、うたた寝したって。

「はじめまして、ですかね? 私はといいます。」
「・・・ああ、そうだな。はじめまして。
 私はヴァン。ヴァン・グランツだ。」

返事を返した。
この人は結構話が通じる人なのかもしれない。
即座に判断した私は改めて、背筋を伸ばして立っている男性を見つめなおす。

「ここの家主さんですか?」

まぁ違うだろうと思っていた問いかけに対する表情は、案の定渋かった。

「・・・君は何も知らずにここに来たのか?」
「はい、まったくといっていいほど知らないんです。」

返された問いかけに答えを渡す。
『奥様』と『ルーク様』が似てたから、似てないご兄弟かもしれない。
家臣さんというにはちょっと偉そうだしなぁ。

「自分がここにいる理由も知りません。」
「つい先ほどの騒動でメイド達に結構な大口を叩いていたそうだが。」
「だって不審者だって証明して、痛いめ遭うのは私でしょ?
 私がここに来たのは不可抗力だって力説したかったんですよ。」

痛いのはイヤだし。
いいかげん、帰る方法を探したいし。
スイカの汁とか汗とかで気持ち悪いし、自分の今後の目処も立たないし。

踏んだり蹴ったりどころか何の光明も見出せない。

私が、あっちこっちに飛ぶ理論も知らない。
せめて何がきっかけになっているのかだけでも知りたいんだけど、今のこの状況で思考できるわけもないだろうなぁ・・・どうしろっての。

「不法侵入をしたというのに、入った場所がどこなのか知らないのか?
 随分不思議な話しをするな。」
「目的があって侵入したわけじゃないんです。
 ヴァンさん・・・グランツさん?」
「ヴァンでいい。」
「ではヴァンさんは、私がここに来た経緯をご存知でしょうか?」

綺麗な青い瞳が細められる。

「掻い摘んでしか聞かされていないな。」
「そうですか・・・」



んー?



口だけは納得じみた返事を返して私は内心で首を傾げさせる。
先程のメイドさん云々の質問から、彼は私がこうなっている状況を知っているのだろう。
ということは、この人はあのメイドさんとか兵士さんとかルーク君とかのお知り合いなのは間違いがない。
掻い摘んで・・・という情報量だけで私に会いにこれる立場の人間。

いや、ここで私が何か新しいことを発言することを望んでいるんだろうが、そういうヘマをするわけがない。いつぞやの赤毛のお兄さんに話した通り、情報は個人にとっては金品にも匹敵するだけの価値を持つことがあるんだ。
無駄に撒き散らすわけにはいかない。

確かに、理不尽極まりない境遇だけど。
それはあくまでも私の立場の意見であって、不法侵入されたこのお屋敷の方々にしてみれば当然の結果なんだ。


私が他者を責める権利など無いのだ。この世界では。


「ヴァンさん。私はね、命があるだけ儲けものだし、今生かされているという事実こそこれから私が助かる可能性につながっていると思っているんです。
 私は世間知らずなんです。だから少しでも、私は私の話を聞いてくれる相手が欲しい。」

意思を持って紡ぐ言葉は、人間に対する絶大な効力を持つ。
言葉は味方を作ることもできるし敵を生み出すこともできる。
自分を守ることもできれば、人を傷つけることもできる。


言葉を操ることで、人は最高で最低の武器を手に入れたのだ。


私からの突然の語り掛けに戸惑う様子もなく、彼は続きを待つ姿勢を私に示す。

「ヴァンさんは、私が生かされている理由を知っていますか?」
「いや、私はそこまで知らされていない。」
「じゃああなたは、なんで私を見張っているんです?」
「何故、そう思う?」

何故も何も。
いきなりこの家のトップの人に会わせろと言う不届き者が現れたのなら、それを見極めるだけの力量を持った人間がきてもおかしくないでしょう。
私が言った嘘の全てを聞いている人間であれ、私の話を掻い摘んでしか聞いていない人間であれ、姿を消していた不審者である私の前に立つということはこの人は取り巻きを必要としないほどの実力者。

「私を放置する理由のほうが思い当たらないし?」
「そうだな、私も公爵殿がどんな考えを持っているのか想像もできん。」
「そうなんですよねー・・・私の有効な活用方法でも思いついたんでしょうか。
 私自身、何に役立てるのか想像もできないんですけどね。できるのは掃除と料理、お裁縫ぐらいですけど、さすがにこんなお屋敷じゃ必要ないですよね〜あはははっ」

私に突き刺さるのは、目の前の男の人からの視線だ。
さっくんさっくん刺さってくる値踏みするような視線。

「私、できれば自分の家に帰りたいんです。」

そんな視線に構わず、笑顔を浮かべたまま私は言い切る。
嘘でもなんでもない私の本心。

「帰らせてやりたいのは山々だが、こちらとしても君がどうやってここに侵入したのか判明できない限りそれを叶えてやる事は出来ない。」

予想に沿った返事。

「君にファブレ公爵を害する意思がなくとも、同じ方法で何者かが侵入してこないとも限らない。その問題が解決しない内は拘束は続く。
 知っていることがあれば教えてくれないか。」

つまり情報を出し惜しむというなら、自由はないと。



んなこと言ったって、ここに飛んできた方法なぞ私のほうこそ聞きたいわ!



「炎に巻かれたらどっか飛んじゃうっていうのは、よくあることなんですか?」

背を伸ばしなおして私は笑顔のまま問う。
当然、これが異質なことぐらい子供だってわかる。

「それは―」
「野菜が突然降ってきたり、その落下物であるスイカの衝撃に気を失った人間が屋内から野外に勝手に転がっているなんてありえることなんですか?」

これだってあり得ないだろう。
そんなこと返事をもらわなくたってわかる。
これが常識なら、あの時居合わせた鎧の人の狼狽っぷりはおかしいから。

私自身の経験では、たまにあることになりつつあるのが悲しい事実だけど。
勿論それは明かさない。

「・・・・・・聞かない話だ。だからこそ脅威といえる。」
「一体誰が、一人暮らしの小娘に?
 こんな不安定なことをする意味がわからない。」
「一人暮らしだと言ったな?」

食いつかれたポイントはそこか。

「はい。」
「家族のことを説明してもらえるか。」
「・・・合点。」



無論、本当のことを話すはずがない!



「一緒に暮らしていたのは祖母だけです。両親は物心ついたときからいませんでした。
 申し訳ありませんが住んでいた地域等の名前は聞いたことがありません。
 母の名前はモス、父はマクドナルド、祖母はロッテリアです。
 祖母は髪の色は白髪でわかりませんが瞳の色は私と同じ黒でした。両親のことは詳しく聞いたことがありません。生きているのか死んでいるのかも。」


用意していた嘘八百。
正しさと対比させるのは私だけで十分だ。
私の言葉にヴァンさんは眉をしかめて不思議そうな顔をした。

「それでどうやって帰るつもりだ?」
「私の家に来ていた行商人の人を探します。定期的に来ていたからには私の家のことを知っているはずです。訊ねてこなくなって久しいですが、殺しても死にそうにない人でしたのでまぁ生きているでしょう。
 それと平行して山火事が起きたという森を探します。
 それが叶わないようなら、私があっちこっちに飛んでしまうこの現象を探ります。
 このぐらいしか私に出来ることがありません、よね?」

悪いがヴァンさんは事情を知っているものと扱う。
彼の態度はそういった類のものだと思うし。

「・・・・・・・・・一つ、言わせてもらおう。」

腕を組んで私の言葉を聞いていた彼は真面目な顔で、私へと前置く。

「はい、何でしょう?」
の話を信じるにしろ疑うにしろこちらも材料が少なすぎる。
 ただ君に敵意も、それを支える武力も見受けられないことは確かだ。
 君の考えがそのようであることは私が公爵殿に伝えよう。」

そりゃよかった。

言いつつ身を翻してドアノブに手をかける彼は、私に向けるその瞳に剣呑な光を宿した・・・ように見えた。




「人里離れて暮らしておきながら、そのよく回る口はいささか不自然だぞ。」





言われてみればそりゃそうだ。





「・・・そんなもんですか?」

これは・・・小首を傾げてとぼけるしかない。
そんな私の反応にヴァンさんはわずかに笑みを浮かばせた。

「ふ、そんなものだ。」

そして静かに扉を開けて部屋を後にした。



困った。
彼の聡そうな瞳の光が目に焼きついて離れない。



「・・・・・・ああ、奥様とやらが無事なのか聞けばよかった。」

仰向けにベットへと倒れながら呟いた言葉は、温かな日の光が差し込むこの部屋に緩やかに紛れて散った。
彼女を見捨てれば私は無事だったかもしれないけれど、それは私の目指す生き方ではないので考えるまでもなく却下。



あー・・・幸先悪い!
後はもう運に任せるしかないじゃないか!!
ヴァンさんとやらの正体もわからないままだし!
今の話し、得るものが何もなかった・・・!!


ベットの上で転がりながら頭をガシガシとかきむしる。
スイカの生臭さが本当に泣ける!


「せめてお風呂にだけでも入り・・・た・・・・・・・・・・・・」






言葉尻だって消える。



だって視界に入った窓の外に、日を照り返させる眩しい赤毛の少年が・・・

いや、何で君まで驚いた顔してるの!



「・・・えっ 君なにしてんの・・・?」













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2008/09/29

 落ち着いて考える暇もくれないというのか!


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