22:冷しゃぶ
戦う術を教えてくれたあなたのために。
私は己を剣とし、盾とし、鎧とし、毒にする。
私を守り、傷を付けさせて、その傷こそをまた新たな武器にする。
躊躇いません。
私は生きたいのです。
迷いません。
私らしく生きたいのです。
だから、邪魔すんな。
22.冷しゃぶ勘違い ソーメンに浮かべちゃう勘違い
悪寒、だった。
傷口からの血や痛みは止まらないし私の立場が最悪になったりとそんな悩みのせいかと思ったが、この奇妙な感覚には覚えがあった。
首の後ろを爪で撫でられるような感覚。
ひょっとして死ぬのかと思ったけど、それとも違う気がした。
じゃあこの感覚は何?
ぐしゃっ
耳に届いた嫌な音。
心に響く嫌な予感。
閉じていた瞼をカッと開けば、仰向けに倒れている私の正面には、天井が広がっていた。
ちなみに天井以外のものもいっぱいあった。
鎧を着た人が一人。
そして野菜。
この次点で十分おかしいが、私にしてみれば何度目かの落下物。
驚きはするもののうろたえたりはしない。
そう、それが例え、何の変哲もない天井から生まれた無数の野菜だったとしても。
それが幾つもの緑黄色野菜だとしても!!
「カボチャは痛いだろ!!!」
私に武器を向けたまま突然の事態に硬直していた鎧の人へと、私は思いっきり体を捻って足を叩きつけた!
ガンッ
「うおっ!?」
不意打ち万歳な衝撃に、思いっきり体勢を崩したそいつの頭上にあった立派なカボチャが、間一髪のところで外れ ドコンッ という重い音をたてて床に転がる。
さすがに鎧の上からとはいえ、何の構えもなくあの重量のものが直撃するのはヤバイと思ったからなのだが。
ラッキーなことに彼が離れてくれたおかげで私も解放される。
「―ぐ くぅぅぅっ!!」
でもまぁしかし、ガラスが刺さったまんま捻ったりすればそりゃあ痛い訳で!!
けど悠長に痛がっていられない!
ドコッ! べしゃっ ぼとぼとぼとっ
ドドッ ド ドコンっ ドサッ! どささっ!
重さと硬さに応じて様々な音を奏でる落下物たちの雨に、私はそれらが自分の傷口に降りかかってこないように祈ることしかできなかった。
床に転がる潰れたトマトやニンジンやナス、キュウリの色鮮やかさがあんまりにもトリッキーすぎる。
っていうか、なんだこの事態は。
何!? 何故なにホワィ!?
今まで経験した落下物は単品だった。
それが、こんな長時間に複数だなんて・・・なんなんだ一体!?
「くっ― 貴様何をした!?」
床に片膝をつき、バラバラと無秩序に降ってくる野菜を腕で払って直撃を避けている鎧の人が私へと叫んでくる。
ちょっとまてにーさん。
「えっ えぇ!? ちょ、私だって被 が ッ―!
―ひ、被害者でしょどう見ても!?」
ジャガイモの直撃に途切れつつも必死に私は反論する。
原因は私かもしれないが、わざわざそれを認めて不利になることもない。
「ソッチは鎧を着てるけど、こっちは怪我人で生身だ生身!!
こんな無差別で無意味な状況を作るメリットがあるっていうのか!?
ざっけんじゃないわよ! どう考えたって私が可哀想でしょうが!!」
私の頭上に降ってきた大根を根性で避ける!
なんと恐ろしい!
「貴様以外にだれがこんなことをする!?」
「自分に利点にならないことを進んでやる馬鹿がどこにいる!?」
むしろ私の立場が悪くなるだけじゃないか。
訳がわかんない!
この落下物たちは、私を助けてくれるんじゃなかったのか!
「ぁあもうっ!埒が明かない!!
訳わかんないこと言っていないで、ともかく壁側に移動した方が−ぁっ」
ご しゃんッ
ほんの少し、ほんの少しだけスイカの匂いがしたのは、きっと気のせいじゃないんだろう。
最後の言葉も言えず、私は頭に受けた衝撃で意識を暗転させた。
ジーザス! 神様!!
お前は私を殺したいのか!!
吹っ飛んで途切れた私の意識は、硬く冷たい何かに全身を打ちつけたことで浮上する。
衝撃に、全身や傷口が痛んで悲鳴を上げた。
うぐぉぉぉっ 死ぬほど痛い!!
・・・いや、痛いってことは死んでない。らっきー。
っていうか、降ってわいたスイカによって撲殺だなんて笑えない。
「・・・ぅ・・・?」
血が足りないのか目を開いても中々合わない焦点を無理矢理落ち着かせると、私は自分が石畳の地面に倒されていることがわかった。
ズキズキと痛むのは左半身、じんじんと痛むのは頭。
微妙にスイカの匂いがする。泣ける。
くるりと視線を泳がすと、立派な建物の他にちらほらと草木が見えた。
・・・外か。外におっぽり出されたのか。
自分の状態を確認してみる。
左半身、痛い。これは、あとで泣きながらでも破片を抜くことにしよう。
スイカの匂いよりも血の臭いが濃くて、鼻腔内に違和感があるところを見ると鼻血でも出ていたのかもしれない。
「・・・ぉ・・・あれ?」
左側を庇いながら体を起こした私は、むき出しになっている自分の腕を見て眉をひそめた。
確かに左半身はじくじくと痛んでいるんだけど・・・惨たらしく赤く染まった白い服と露わになっている腕にあるのは、生々しく血を流す傷口だ。
傷口は確かにあるというのに、肝心のガラスの破片などが見当たらない。
恐る恐る触れてみればより鮮明になる。異物感が無い。
か・・・考えていても仕方が無い。
さー思考を切り替えよう。
・・・さて、ここはドコだ?
建物で影が作られているこの場所に、勿論見覚えなどあろうはずも無い。
傷もこのまま。命もある。
んでもって縄で縛られているわけでもない。
つまり、私はあの鎧の人たちに追い出されたというわけでもないのだろう。
私はまたどこかに飛んでしまったんだろうか。
・・・無一文な状態で!? ひ、ひぃぃ!!野たれ死ねってか!!
着の身着のまま(しかも負傷済み)の状態に圧倒的な絶望感を覚えるけれど、打ちひしがれている場合じゃない!とりあえずここがどこだか確認しなければ!!
見回す限り人の気配はない。
手入れの行き届いた建物の外観や芝生や樹木が整備されている状態から鑑みるに、ここはどこかの敷地内かもしれない。
だとしたら家人を訊ねるほうが確実かも。
近くにあった背の低い生垣を飛び越えて手近な窓を覗き込む。
・・・残念無人。
ららら無人君〜♪ ・・・じゃないが、ならば次。
痛む左足を庇いながら隣の、やや離れた窓へ進んで覗き込む。
上品なベットやタンスのある立派な室内、うーん・・・ここもハズレ、かな。
・・・
ん?
顔の上半分だけで見回していた姿勢を正して、もう一度よく見てみる。
注目すべきは床。
・・・髪の毛・・・だ。
無論、落ちている一本の髪の毛じゃない。
明らかに人の頭から伸びる髪の量。
場所は床。肝心な髪の毛の先はベットがあって見えなかった。
つ ま り。
がぎぃ ガン ―バァン!
「もしもし!大丈夫ですか!!」
ラッキーなことに鍵が開いていた窓を全力で開け放ち、私はその部屋の中へと飛び込んだ。
外から入ることなど想定されていない窓枠は大変登りづらかったけれど、そんなことを言っている場合ではない。痛む体に鞭打って床に倒れているだろうその人の元へと向かう。
呼びかけに身じろぎもしないとなると、大変だ!
ベットを迂回して見下ろせば、そこには赤い髪を散らして床に倒れ伏している女性がいた。
「もしもし!聞こえますか!?
返事をしてください!!奥さん!!」
手早く仰向けに転がして肩をたたきながら声をかける。
整っているその顔はひどく血の気がなかった。
声をかけながら彼女の口元に手をかざすが、よくわからない。
その手を首に当てて感じることのできた鼓動にひとまず安心を覚え、顔を低くして彼女の胸元を注視してみればわずかに上下していた。
呼吸は弱いけど脈はある・・・だけど、これ以上はさすがにわからない。
「―― 誰か!! 誰か医者を呼んで!!」
室内に反響する自分の声だがそれに反応する気配はない。
こっ こんだけ大層なお屋敷の癖に何してやがんだぁぁぁ!!!!
持病か何かの発作なら薬の一つでも転がっていてもいいだろうに、見回す限りそんなものは見当たらない・・・。
ああぁぁぁ・・・もう!!
意を決して、両手で彼女の上半身を起こしてその肩を左腕に、右腕を膝下に差し込んで自分の右膝の上に抱えあげる。
ものすごく不安だったが、別の意味で不安になりそうなほど、その人は軽かった。
後は時間の問題だ!!
私の体と! 彼女の容体と!
「ふん っが!!」
どぎゃ バァン!!
振り上げた足を勢いのまま突き下ろして扉を開ける。
大きく息を吸い込み叫ぶ。
「誰か!! 誰か、医者を呼んで!!」
見覚えのある廊下だ。
ここは、あのルークくんのお宅ですか。
おぉぉっ なんかずいぶん近いところに飛んだな私!
いくらか進まないうちに、ばたばたと慌しい足音が近づいてくる。
がしゃがしゃと金属がぶつかる音がするところをみるとあの鎧を着た人たちかな。
「―――何事だ!?」
「大変だ!医者を呼べ!!」
廊下の突き当りから飛び出してきたその人へと私は叫ぶ。
兜越しでもわかるほど動揺してくれたがそんなこと関係ない。
「はっ お、奥様!? お前、何者だ!! その傷は一体―」
「私のことなどどうでもいい! まずは奥様だ!!
気を失われている・・・反応がない! 早く医者を呼べ!!」
「な」
「医者だと言っている!!」
彼が戸惑っている間に、他の足音も近づいてくる。
「どうした!?」
「きゃ、きゃぁぁ!奥様!?
だ、誰か医者を!お医者様をお呼びして!!」
「そこのあなた! 私の力では奥様を支えきれない、早く安静にできる場所へ運びなさい!」
突然の指示に驚かないはずがない。
私に面と向かって叫ばれた一番初めの鎧の人は、目に見えてうろたえる。
「な、お前は―」
「私のことは旦那様がご承知のうえだ! 詳しい詮索は後にしろ!!
まずは奥様だ!! さあ急げ!!」
『奥様』なら『旦那様』だろうと遮って叫んだ私の高圧的な言葉に、彼はようやく腕を伸ばして奥様とやらを受け取ってくれた。
くっくっく・・・パニック万歳!!
騒ぎを聞きつけてぱらぱらと集まってきた可愛らしい制服を着たお姉さんや鎧を着た人々が、抱かれて運ばれる奥様とやらに視線を投げれば、そのすぐ次には私へと視線が向けられる。
血まみれ(+スイカの汁まみれ)の女がいればそりゃあ怪しいだろう。
疑惑も困惑も当然だ。
予想済みだ。だから私は怯まない。
「あ、あのっ・・・その傷は・・・」
勇気を出した女の人が私へと声をかける。
それにはっと硬直を解いた鎧の人が一人、彼女を庇うように前へと踏み出した。
「いや、そもそもお前は一体・・・」
「私のことを、旦那様からはお聞きしていないんですか?」
まぁ、こんなわけわからん女のことなど話すはずもないけれど。
当然っぽく言われりゃびびるよね!
「こんな格好で奥様に触れることになった件に関しては心から詫びましょう。
ただ、緊急であったことを忘れないで頂きたい。
そこのあなた、立場もあるでしょう。私を捕らえてくれても構いませんよ。」
言って、私は笑った。
「私は。このような事態になったことを旦那様に説明させて欲しい。
どうかお目通りが叶うよう、計らいを求めます。」
起こってしまったものは仕方がない。
不審者は不審者なりに、色々頑張らせていただきます。
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2008/08/01
嘘も方便。塗り固めた嘘。 私はそれを生きる土台にする。
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