16:ところてん・ナタデココ





人を憎む感情
重い 重い感情

人に無関心な心
己が軽すぎて不安定だ

人を愛した感情


それはかけがえのない柱であり
人を戒める縛鎖となる










16.唸れ海草ところてん 突っ込め密かにナタデココ










 ボサ ン  ボサボサボサッ


針葉樹の密集した葉から大きな音をたてて、塊の雪が雪面へと落ちる。
その雪の山を確認するように眺めるのはイヤーマフをした金髪の子供二人と、毛糸の帽子を被っている銀髪の子供だった。
まじまじと彼らの前に置かれている譜業を眺めているのは、蒼い瞳を瞬いたフランツだ。

「ふーん、精度としてはこんぐらいか。
 サフィール、やればできるじゃないか。」
「別に僕はフランツのために頑張ったんじゃないもん!
 ジェイド、すごいでしょ?僕にはこれぐらい、簡単なんだよ!」

そんなサフィールのあからさまな態度には慣れているので、フランツも特に取り合ったりせずに、サフィールが作った雪だま投げ機を観察する。
フランツには何がどうなっているのかさっぱりだが、このどこかヌケたところが多い友人の唯一の特技には感心できる。
まぁわかりやすく言えば、そこぐらいしか感心できない。

「雪玉じゃないものでも同じところにいくかやってみようぜ!」
「あっ 僕の手袋ーッ!!」

すばやい動きでサフィールから手袋を奪ったフランツは、そのままちゃっちゃかと譜業にセットして先程見て覚えていた機動のスイッチを押す。
歯車とクランクが小さく音を鳴らし、見事、サフィールの青い手袋は宙を舞った。

「―お、すっげー ちゃんと同じ場所に落ちたな!」

そして見事、先程できた雪溜まりへと落ちた。
その着弾点は先に投げた雪玉とほぼ変わりない。

偶然と言うことを考えない・・・とすると、その譜業は投擲する部分かどこかで乗せられた物質の重さなどを計測し、それを目標地点へ放つ時の距離やバネの強さまでを瞬時に計算していることになる。
結構・・・凄いことなのだが、それに気付いているのはジェイドだけで、また彼はそのことをわざわざ伝えるような人間でもなかった。
嗚呼 無情。

「うわーん! ひどいよフランツ!!」

半泣きになりながら、サフィールは手袋の元へと走る。
走って走って・・・こけた。

ぎゃーっ と泣き喚くサフィールを遠目に眺めながら、二人は軽く言葉を交わす。

「・・・・・・なんでこけるんだろうな・・・」
「アタマと体と、どっちもバランスが悪いんだろ。」
「なるほど。」

そこで、ピタリとサフィールが泣き止んだ。
随分と珍しい事態だ。
思わず二人が視線を投げると、サフィールは雪溜まりを凝視したまま硬直している。

「・・・・・・ん? なんか、あそこ落ちてきてないか?」
「?」

目を細めたフランツが漏らした言葉に、ジェイドは眉を顰めてみせた。
そして目を凝らしてみる。
雪溜まりにあるのは、雪の白、手袋の青・・・そして、何かの赤だ。
それは、すぐ上の木から落ちてきているように見えた。

「ジェイド!お花だよ!!」

正体がつかめないで居ると、サフィールが振り返りながら叫んだ。
赤い花?
・・・何を言っているんだ。
雪のすぐ上の常緑樹は、花なんかつけないというのに。

それでも サフィールがそう言うのなら、あの赤は花なのだろう。
信じられないことに。

「上に誰か居るのか?」

サフィールのほうへと駆け出したフランツの言葉にサフィールは首をめいいっぱい見上げさせるが、そこに人影のようなものは見当たらず、ただハラハラと赤い小さな花が降ってくるだけだった。
ジェイドもその様子を眺めながら歩き出す。

「誰も・・・いないよ。
 うわぁ スゴイ・・・いっぱい落ちてくる!」

はしゃぐサフィールの声の通り、何も無い木から落ちてくる花は増えてくる。
その大量の赤に、すぐ下の雪は鮮やかに彩られていた。

「本当だ! なんだこりゃスッゲー!!」
「・・・・・・・・・」

ジェイドが知る限り、見た事が無い花だ。
このような花弁の形、数、似たようなものは思い浮かぶけれど、どれも一致はしない。
自分が知らない物の存在。

そこでジェイドはハッとした。
上に、原因が無いのなら、『下』はどうなのかと。

すぐにジェイドはその、花に飾られた雪の塊に手を伸ばした。驚いてみせる二人を無視して肘近くまで埋め込み、そしてそれを真横へと払う。
赤い花と雪が散り散りになって散らばった。


そして、白い雪の中に埋まっている、黒い何かが露わになる。

雪と氷に纏わりつかれたのは・・・黒い、髪の毛だ。


「―なっ !?」

驚愕の声を上げたのはフランツだった。
予想外の人物の出現に思わず止まっているジェイドに続いて、その雪を掻き分ける。

!おい!!」

ぐったりとしたまま意識を失っているを引きずり出そうと雪を分けて、ようやく現れたその体を目にして全員が息を呑んだ。
それは彼女の体をぐるぐるに拘束しているロープだ。
マルクト軍が盗賊か何かを捕まえたときなどに遠目では見た事があったけれど、間近で見る悪意の篭った縛り方に混乱しないわけが無かった。

「なっ なにコレ!? ねぇジェイド!何コレ!?」
「―煩いな。 僕が知るわけが無いだろ。
 そんなことより、お前は急いで先生を連れて来い。
 他の大人には絶対に言うなよ。
 コイツが怪我をしたっていうことだけ伝えるんだ!」
「エっ う―うん!うん!! わかった!!」

ジェイドに縋りつくサフィールを乱雑に払い、ジェイドはそのまま怒鳴りつけた。
戸惑いながらもサフィールは必死に頷いてすぐに踵を返して走り出す。
ジェイドはすぐにフランツへも顔を向ける。

「コイツを引きずり出したら帰れ。」
「―ッ・・・・・・・・・わかってる。」

ジェイドの言葉が表す意味にフランツはまともに眉を顰めた。
それでも、無理矢理自分自身を納得させて頷く。
自分は騒ぎに巻き込まれるわけにはいかないから。

二人がかりでの体を雪から引きずり出して、フランツはすぐに立ち上がり広場の外へと走り出す。そして出口直前で振り返ると、その場から叫んだ。

「明日、は・・・どうなるかわからないけど、ちゃんとなにがあったのか教えろよな!!」

ちくしょー!という声を残してフランツの姿は見えなくなった。


後に残されたのは、雪まみれで半分凍っているとジェイドの二人だけだった。











目を開けると世界は暗かった。
今度こそ私は死んでしまったのか。

・・・馬鹿だ。
死んで、見える世界なんて無いんだ。
死んでも世界に存在できるなんて、そんなことは生者の錯覚なんだ。

ならここは。
ここはどこだ。



 ザ ァ  ア ァァ ァ



水が流れる音を聞いた。

雨の 音?

私の皮膚を、服を叩く水滴。

流れる水の音。
地面も叩く水の音。


体にまとわりつく 水


目を見開く。

月も星も無い 闇



土の臭い

それと

錆びた鉄の香りを錯覚する



「  ぃ   ゃ  」



喉が痙攣する。
横隔膜が硬直する。
呼吸が乱れて肺が軋む。
濡れた服に拘束される体が、重い。


錯覚した思考が転がる。



ここはどこだ ここはどこだ ここはどこだ


ここは――



「いやいやイヤ! いやだ!いやぁーッ!!」
!?」

体が逃げを打つ。
逃げられるはずが無い。


知っている。
現実を覚えている。
逃げても何も変わらない。


だけど怖い。


逃げられない。助けて。


違う助けてあげて。


一緒に倒れた体から温度が消える。

温くなって水と同じになる。

すべてが一つになる。
私を残して。







私も一緒に死ねばよかったのに。







「やぁ アーーーーーッ!!」
!!」


  バチンッ


頬に衝撃が走る。
衝撃で揺れる私の視界には薄闇の中のタイル目があった。

ゆっくりと首を動かすと、涙の膜の向こうにネビリム先生の顔が見えた。
先生はやけに真剣な顔をして服を着たままシャワーのお湯を浴びていた。

音の根源はシャワーのヘッドからで、それは温かいお湯で。
数拍の間を置いて、薄闇も、光の点滅の後に完璧に消え去る。
タイル目を辿る液体は、透明なお湯だ。


正気に戻る。


ここは、ここは
あの場所ではない。


「・・・ご・・・な、さ・・・い・・・」

激しく脈打つ心臓の鼓動を聞きながら、私はなんとか謝罪する。
息は詰まったものの、声は震えなかった。

ここは、ネビリム先生の家のお風呂だ。
・・・なんで私がここに居るんだ?
そのあたりの記憶が一切無いんだけど・・・


・・・おー・・・おぉぉ???


ああくそう、タイミングが悪い。
今日はもう駄目だ。
全然、まったく、なにも考えられない。

一人で勝手に暴走してどうするんだ。
迷惑をかけてどうするんだ。

足と下っ腹を俯いて見つめる。
・・・お湯というよりも微温湯だ。
きっとこれは、水に濡れていたことに加えて雪まみれになっていた私への凍傷対策だったのだろう。

そして、私は錯乱していたのが嘘のごとく落ち着いた声を吐いた。
目元から流れ落ちていくそれは、どうしようもないけれど。

「・・・お恥ずかしいところを、見せました・・・」

恐れる対象はないのだ。
だから声は震えないけれど、高ぶった感情は運悪く涙腺を開きっぱなしにしてくれているようで、頬を流れる涙は止まらない。
それでも口元に笑みを浮かべて、私はもう一度大丈夫だと呟く。

「すぐに落ち着けます。」
「無理をしていない?」
「実は大丈夫なんです。初めてじゃないんです。
 コントロールはできないけど、そんなに長引くものでもない。」

視線を泳がせると、視界の端にある入り口にあった金髪頭が揺れた。
アレは、ジェイド君だろうか、フランツ君だろうか。
余計な心配をかけさせてしまった。

それでも今は、フォローできそうに無い。
私は、私のことで手一杯なんだ。
馬鹿だ。調子付いて自分のテンポを忘れてしまった。

ここはどこなのか、ここを、あの場所と錯覚するなんて。
馬鹿か。
馬鹿だ。
私を助けてくれたあの人を侮辱したに同じだ。

「・・・とりあえず、一度湯船に浸かりなさい。
 よく温まったら譜術をかけるから。」
「・・・先生、何で私は助かっているんですか?」

優しい先生の言葉を跳ね返して、私は問う。
私の記憶は、あの雪の塊が私の頭を直撃したところで止まっている。
なのに、何故私はここに戻ってきているんだ。

私の疑問は表情にまで出ていたのか、先生は少しだけ笑って私の肩を掴む。

「・・・後でちゃんと説明するわ。」
「今教えてください。」
「後でよ。
 このままじゃ私も風邪を引いてしまうわ。」
「・・・・・・」

そういえば、先生も一緒にシャワーのお湯を浴びてしまっていた。



・・・それを言われたら引き下がざるをえないじゃないですか。













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2007/11/09

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