12:担担麺





『死』 を漠然に感じ取ったあの日

私は 生きているのか

生きているのか

生きていられるのか


殺されるのか


命の重みが 不透明な膜になって私の足をすくう。
足裏にあった久しく見る『死』の微笑に、私はそれ以上の微笑みを返す。
足を振り下ろして踵でその微笑みを踏みにじり、私は叫ぶ。


  私は もう 小娘ではないのだ!










12.鷹の爪に加えて熊の爪まで投入した担担麺










目を覚ますと、そこは知らない場所でした。

某有名映画のパクリと言う訳ではないけれど、事実なのだからしょうがない。
私の記憶は吹雪の空にをピー○ーパンのように自由に、そしてフッ○船長のように無様に舞ったところで止まっている。

ちなみに今現在、私が見ている風景は天井いっぱいの木目だったりする。

私はベットに丁寧に寝かされていた。
・・・生きている現実にびっくりだ。
こう言うのもなんだけど、私自身はあの時ジェイド君に殺されてしまったのだと思ったぐらいだったし。
何でああなったのか非常に疑問が残りますが。



・・・


あぁ 生きてて良かった。




「気がついた?」

安堵の息を吐くと同時に、女の人の声が投げかけられた。
声の方向に首だけを動かすとそこには一人の女性が立っていた。
綺麗な銀髪のナイスバディー。


やっぱりこの世界は美人が標準装備のようです。


「・・・あー・・・すみません、ここはどこでしょうか?」

声を出すのには少しだけ喉に違和感を覚えた。
風邪かな。

「ここは私が開いている私塾用に借りている家よ。
 そこの保健室になるわ。」

私塾―と聞いてピンときた。
いつぞや、サフィール君から聞いたジェイド君と一緒に勉強する場所がそこだったはずだ。
大変珍しく私の頭が好転する。
目の前の女性が誰なのか、話し伝てに聞いていた人に合致してしまったことに頭を抱えたくなった。

「あー・・・なるほど。はい。
 これはご親切にどうも有難うございました。」

体を起こす気にはなれなかったので口先だけだが礼を言っておく。
女の人はとても綺麗な笑顔をうかべた。

「いいのよ、貴女に迷惑をかけたのはうちの生徒だったんだもの。
 一応外傷らしいものは擦り傷程度だったんだけど、どこを打っているのかも分からないわ。違和感を覚えるようだったら教えて。」



擦り傷だけか。 すげーな私。



悪運の強さに思わず溜息が洩れた。
溜息と一緒にいろんな思考を流して、私はゆっくりと上半身を起こす。
くらくらと視界が回るような違和感を堪えつつ視線をこの、私塾の『先生』である女性へと向ける。

「私はとりあえず自分の体の心配よりも、こんな目にあわせてくれたジェイド君とお話をしたいんですけど。」
「あの子に譜術をくらわされているのに?」

小首を傾げてみせる女性へ私は小さく頷いた。
偽りも無ければ迷いも無い。
ただ、不明瞭なまま放置する問題ではないと私は考える。

譜術というものはジェイド君が囲まれていたあの獣どもを蹴散らすためのものであって、断じて私のような人間を吹っ飛ばすためにあるわけではないのだろう。
威力の幅はわからないけれど、ともすれば死んでしまっていたのに。
殺意はともかく、確かな敵意があったので可能性がないとは言わない。


いやむしろ・・・原因追求を先延ばしする意味がない。


「先生が一緒なら、さすがにいきなり譜術をぶっ放すことは無いでしょう。
 理由もちゃんと聞きたいし、話が通じない子供でもないと思うんで。
 …あ、ジェイド君はおうちですか? だったら別にいいんですけど。」

事は急くけど、時間はあるし。
騒動の張本人がそうそう家を出させてもらえることも少ないと思うので付け加えたのだが、それを聞いた先生は突然顔を伏せて笑い出してしまった。

「ふふっ・・・ごめんなさい。」
「まさかこんな私に人を笑わせる才能があろうとは・・・まぁそれはもちろん冗談ですけど、どうしました先生。」
「あなたの物言いが珍しくって。」
「・・・はぁ。」

本人そんなつもりはないんだけれどよほどツボにはまったのか、先生さんはかなり笑いを堪えていた。
品のいい爆笑の仕方だなーと見当違いな思考を続けていると先生さんは、目元の涙を拭いながら向き直る。

「悪い人ではないようね。 ごめんなさい紹介が遅れたわ。
 私はゲルダ。ゲルダ・ネビリムよ。」
「そう言ってもらえると安心です。
 はじめまして、私はです。」

初対面の挨拶がベットに寝たままでごめんなさい。
と、内心で謝っておく。
・・・性分。性分ですから。

ネビリム先生は笑顔のままベット脇の椅子に座って私に視線を向ける。
うわーい 眼福!

「見たことがない格好だけど、あなたどこから来たの?」
「服は私の郷のものです。
 山で遭難しかかっているところをジェイド君に助けられこの街に来ました。」




『・・・・・・・・・』




「遭難?」
「何故か気がついたら森の中にいまして。
 そこで偶然ジェイド君と会いまして。らっきー。」

笑顔で不穏ワードに首を傾げる先生へ、つらつらと返答を返す私。

「そこであの子と会ったのね。」
「っていうかそれっきりですね。」

会話もろくになく(むしろ私の一方通行)、別れ際に置き土産を渡して別れたっきりだったのに。


・・・何でこんな目に遭っているんだろう?


いきなりそんな無茶苦茶なことをするような子供に見えなかったんだけど。
これはアレか。
私が無意識のうちに彼の逆鱗に触れたとか!
意図的にからかった記憶はあるから、むしろそっちが原因か?


「この間はケセドニアにいたんです。そして気がついたら森の中です。
 私にも何がなんだかさっぱりで・・・」

隠しきれることでもないので正直に私は現状を伝える。
嘘をつこうにも嘘になる情報がないのだ。
この世界での移動手段もろくにわからないのに、誤魔化すといった方が難しい。

「・・・あなた、もしかして第七音譜術師?」

軽く目を見開いたネビリム先生を見上げて私は首を傾げた。


せぶんすふぉにまー?


・・・ふぉにまー っていうと、あの魔法みたいなものを使う人のことだったよね。確か。
せぶんす 7? 七つの音素を使う人?
音素とやらがなんなのかも知らない私にそんな無茶な。

「・・・その様子だと違うみたいね。」

疑問符を浮かべたままの私の様子を見た先生は上手く判断をしてくれました。
この人も人間できているなぁ。

「はぁ、すみません。何のことなのかサッパリです。
 はっきりしているのは、私が譜術ってやつを使ったこと無いだけです。」
「譜術を使ったことが無い?
 まったく素養がなかったということ?」
「は・・・いえ、全然気にしていなかったんで詳しくは知りませんよ。
 っていうか先生落ち着いてー」

詰め寄ってくる綺麗な顔にどぎまぎしながら手をかざす。
すんなりと体を離した先生は、何やら難しそうな顔をして唸り始めた。

「・・・先生?」
「・・・悩んでいてもしょうがないわね。」

溜息と共にこぼれたのは決心のような感情だった。

、今からジェイドを呼んで来るわ。」
「え、大丈夫なんですか。」

今度は私が目を剥く。
椅子から立ち上がった先生はそんな私にもう一度改めた笑顔を向ける。
翻る白い白衣のような裾と揺れる銀髪に視線を奪われながら返答を待つと、彼女は扉の前まで移動してようやく言葉を発した。

「状況が状況だったから今日はここで預かっていたの。
 ちょっとまっていてね。」

笑顔で告げられた言葉に僅かながらに戦慄する。


子供といえど、動悸が不明な加害者と身動きが取れない被害者を一つ屋根の下に置いておくのはどうなんだと心の中で叫んだ。



私は力を持たない。

現状を理解するだけの情報を得ることもできないし、ましてや元の世界に戻ることもできない。
人に危害を加えることも、人を救うこともできない。
知識も何も、足りないのだ。

あの子供は救うことはともかく、危害を加えることができるだけの力を持っている。
小さな体躯で難しそうな譜術とやらを使いこなせる技量もある。
何の感情を浮かべることなく魔物とやらを虐殺しても、そこには探求の意思しか存在しない。

そういえば私は、あの子供が顔を歪めるのを3度ぐらいしか見ていない。

新しいものでは、一日挟んで会った私を睨んだ時。
その前は私が子供を殴った時。
そしてその前は焼けた獣の匂いを嗅いだ時。


苦痛と不快と、不審の表情。




・・・笑ったら可愛いと思うんだけどな




それから数分もしないうちにドアが軽くノックされる。
あまり慣れない状況でこそばいいけれど、放置するわけにも行かないので「どうぞ」と入室を促す。
先立って入室する小さな子供を見つめて息を吐く。

金の髪に赤い瞳のその子は、私をしっかりと正面から睨みつけていた。




子供だろうが大人だろうが賢者だろうが。
私は、私の平穏を奪う行動を許さない。


口がある。意識がある。意思がある。


分かり合える余地があるのに排他するその態度は、静かに私の怒りを買った。













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2007/06/15

 平等で、対等な立場で話し合いましょう。それともその口は飾りですか?


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