10:地獄蒸し





鋭利な氷の粒

生きた心地のしない冷たい場所

殺そうとするのは獣の手


立ち向かうには 盾が 剣が 勇気がいった


抗うには 心が 友が 希望がいった










10.ジャガイモのニョッキを圧力釜で10分煮込め










昨日と打って変わった猛吹雪の空を頭上に、私は目を覚ました。
窓を隔てたその惨状は、私にしてみれば初めて見る光景だった。
びたびたと風で窓に叩きつけられる雪の塊はマシュマロを彷彿とさせるボタン雪。凄い。

「すっごー・・・大雪だー。」

思わずベットの上に座りなおして私は呟く。
こんな雪は見たことがない。
雪国というのはこんな風に吹雪いたりするのだと感心する。
私の住んでいる地域でこんな雪が降ったら、まず交通機関が麻痺するだろう。そしてライフラインまでもが止まりそうだ。
本場ではそんなことにはならないだろうけれど、そんなところに何の準備もしてこなかった私はそうは行かない。
雪道の歩行ですら危ぶまれるだろう。
運動は苦手なわけではないけど、それはそれ、これはこれ。


つまり本日の就職活動は不可能。

・・・学生さんはお金がないんですがねー


危ない橋は渡らないことが吉だ。もう少し雪に慣れてから、この吹雪には挑戦しよう。
私はそう心の中で決意して服を動きやすいものへと着替える。
しょうがない、やることもないのでこの宿の人の手伝いでもしよう。この世界について面白いことが聞けるかもしれない。


 コンコンコンッ

『嬢ちゃん、お客だよ。』


返事をする前に投げかけられた意外な言葉に、柔軟していた体勢で止まる。

「はぇー? お客ですか?」

『ああ、とっとと連れてでておくれ。
 店の邪魔なんだよ。』

思いもよらない邪険な言葉。
心当たりのない私は首を傾げるばかりだ。

「? は、はぁ。」

とりあえず、客人とやらを迎えよう。




階段を軋ませながら酒場兼ロビーのそこに下りると、まず、目に付いたのは色鮮やかな金糸だった。
こんな薄汚れた宿でなければそれはもっと輝きを帯びても良かっただろう。私がそう感じるほどのこの場に似合わない頭がそこにあった。
しかも随分と低い位置にある様子から、その人物が随分と幼いという事が窺える。

「・・・」

カウンターの奥にいるこの宿のご主人の方に顔を向けてその金髪頭を指差すと、仏頂面のおじさんは無言で頷く。
彼(彼女?)が私の客らしい。
子供というと先日捕まえたジェイド君のことを聞いたグループと、同じ内容を聞いたサフィールという名前の子供だ。
私の記憶にある限り、あんな色の頭の子はいなかったと思うんだけど。

狭い室内、少ない人々の中で歳若い私や子供はかなり目立つ。ジロジロと子供や私にふりかかってくる好奇の視線に耐えながら私は、その子供へと足を向けた。

「子供が、なんて場所に来ているの。」

そう言い放つと、子供はこちらに勢い良くその顔を向けた。
青い目で金の髪の、可愛い男の子だった。


・・・うん。
全然知らないよ、この子。


「ホントに頭と目、真っ黒だ。」

私をまじまじと見つめていた少年は、開口一番そう言ってくる。
えぇー日本人の標準装備を、そんなに目を輝かせて言われたらかなり照れるんだけど。

「自慢の髪と目よ。自慢の両親の遺伝子の真骨頂よ。
 ともかく、こんなところになんで子供が来ているの?
 外は吹雪で、こんなに朝早くに。あぶないでしょうが。」
「べつにこれぐらいの雪だったら歩くぐらい大丈夫だって。」

あ、やっぱり地元じゃそうなんだ。

「それで?初対面だと思うんだけど、少年。いったい何の用?」
「俺はフランツだ。姉さんさ、ジェイドに本あげただろ。」

意外な名前が飛び出した。
じゃあジェイド君のお友達か?

「私の名前は。確かに、あの子に本を渡したけどそれが何か関係あるの?」
「大有りだ!」

突然フランツ君が声を荒げる。
うぁぁっ 止めて、注目されるから!

内心の動揺をひた隠して少年を見下ろすと少年は座っていたイスからおりて私を見上げる。


「おかげでジェイドが一緒に遊ばなくなったんだ!!」


そ、そりゃ大変だ。

なんて言う訳ないだろう。


「はー・・・つまりは、彼が読んだことのない本に没頭して遊ばなくなったんだ。どう責任とってくれるんだテメーという状況だといいたいわけ。」
「そうだ!」

あらまぁいいお返事。

思わず視線を遠くに投げてしまいそうになったがギリギリのところで堪えきる。
なんという子供だ。ここは見る限り街中のように治安のよさそうな場所じゃないのに、わざわざそんなことを言うためにここへ来たのか。
昨日のサフィールを含めて、随分愛されているんだねジェイド君。

でも一線を越えている子が多すぎて正直困るんだよ。

お願い、カウンターのおじさん。私を睨まないで。
私にはどうしようもないんだ。

「・・・・・・」

窓を打つ轟々という風の音。
雪の塊。

それよりも心苦しい周りの視線。


やめてー。


「よぉっし少年、少し出ようか。」

言うや否や彼の手を取り私は宿の出口へと向かう。
突然のことに少年が本気で驚いた顔をしたけれど、私は構わずにそのまま進み、通りすがりのカウンターのおっちゃんに部屋の鍵を預けて雪の吹き荒ぶ外へと飛び出した。

私の中途半端な長さの髪が冷たい風に踊る。

「平気ですかー・・・?」

ばしばしと体の側面に積もる雪に、思わず私は声を吐き出した。
凄い。雪だ。

「・・・の方が平気に見えないけど。」
「うん、平気じゃない。ゴメン。マジむり。寒い寒い寒いさむい。
 ここじゃキミも私も危ないからとりあえず、街に、いきましょう。」

外壁沿いは本当に治安が悪いのだ。
女一人、子一人では、柄の悪い輩に絡まれても文句の言いようもない。


「こんな天気にうろつくなんざ、酔狂な奴がいたもんだなぁ。」

子供の声を遮って、下卑た声が聞こえた。


―ほらみろ。軽率な行動なんてするもんじゃない。


こんな雪の吹き荒ぶ中ご苦労様だ。
前を歩かせていた子供が振り返ろうとするのを頭を撫でて押さえ、私だけが声の方向へ体を向ける。
案の定、そこにはお世辞にも品のイイとは言えないお人柄の人間がいた。
しっかりと防寒対策をしている格好の体格のいい男だ。
そいつは粘っこい笑みを浮かべて私たちを見下ろしていた。
非常に腹の立つ表情だ。

「よぉ嬢ちゃん、つれねぇじゃねぇか。
 俺らが誘っても動かなかったくせによぉ。」

男の後ろに人影が増える。
その風体を見る限りこの二人は酔っ払っているようだった。
酔っ払い相手か。

「また今度誘っていただける?私急いでいますの。」

私は男に向かって満面の笑みを浮かべた。
丁寧な口調の私に、男たちは調子付いて私の手を掴んでくる。

「まぁそんなガキなんざ放って俺たちに付き合えよ。」
「そんな無責任な発言は嫌いです。
 一昨日きやがれ下種野郎。

『・・・はぁ?』


男たちの表情が硬直した。
私は男の顔を見つめたまま、雪を巻き込みながら右足を振り上げた。


「――ふんっ!」


 ゴギン


気合と共に一撃。
男の目が一瞬、白目を向いたのがわかった。
その隙に掴まれた手を男の腕から振りほどき、その勢いに任せて手に持っていた鞄を男の横っ面めがけて振りぬいた。


 バゴンッ


こちらもクリーンヒット。


「少年!」

目を見開いて硬直していた少年へ振り返って、私はその体を反転させる。
そしてその背中を強く押した。

「ほれ走れ!!」
「は!? え、わぁっ!」

慌てて走り出すその背中を追うように私も走り出す。

「―待ちやがれコノ女!!」
「きゃあぁ!」

思いの他早く反応したもう一人の男の手に、私の体が掴まれる。
全身が総毛立つ感覚に悲鳴を上げた。

「は、離―」




 ズドンッ



振り返り様に振り払おうとした男の体が唐突に消えて、私の目の前には歯を剥き出しにした茶色い物体が一つ。
えっ 何これ怖ッ


『……………』


沈黙は当然だ。
なんせ騒動のど真ん中に狸の焼き物が降ってきたのだから。

・・・知ってる? 子供くらいの大きさのでかい狸の置物。
観光地のお土産屋さんとかで入り口に飾ってある、顔が凶悪な狸の焼き物。

それが、なんで、先ほどの男を轢いているのかがわからない。


あ、デジャ・ビュ。
こんな光景に見覚えがあると思ったら、つい最近に同じように男がソファーに轢かれていた。


・・・と、いうことは。
やっぱりこの落下物というのは私が原因で降ってくるのだろうか。
・・・一応タイミング的には助かっているので、深く考えないでおこう。

やおら、私は子供の手を握る。

「ほら走れ!」
「えぇ!? 」

驚きに目を見開く子供の腕をそのまま引っ張って私は再び走り出す。
たたら踏みながらもすぐに体勢を立て直す子供と一緒に、街の中央へと向かって走った。

「まっ―待ち、やがれ!」

瀕死な声は無視!





・・・これで私が宿に帰れなくなったら、とりあえずこのフランツ君とやらを一発殴らせてもらおう。













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2007/04/17

 ジェイド君モテル男は辛いですね。ただ、飛び火させるのは勘弁してください。


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