7:チュロス





女はか弱い。守るべき存在だ。

子供は弱い。擁護するべきだ。

片腹痛い。
喉が引き攣る。

金を食い物にする蛆虫には


道徳観念なんて存在しない。










7.ポッキーゲームにチュロスを使用










マルクトの軍人さんである銀髪のお兄さんの名前は『アスラン・フリングス』だそうだ。

コマーシャルでよく聞いていた名前だとは思ったけれどそこは言わない方向で。
彼と一緒に、結局私は軍の詰め所たるところへ来ることになった。
別にやましい事をしたわけではない。
念のために言っておく。

その証拠に、私の前には優しそうな女性隊員さんが座っている。
簡単な調書を作るらしい。


「ではお聞きしますが、貴方のお名前は?」
「あー、ファミリーネームは『』で、名前は『』です。」

怪訝そうな顔をされなかったところを見ると、姓はファミリーネームであってるんだろう。
コレで間違って苗字を名前と書き据えられたら後々の恥だ。
女の人は書類にスラスラと書き込むと、笑顔で質問を続ける。

さんですね。どうしてこの街に?」
「いやー、気がついたら国を飛び出していまして・・・危うく行き倒れになりそうなところを親切なお兄さんに助けてもらったんです。で、近くのこの街に連れてきてもらったのはよかったんですが、そこに帰る手段も無いのでとりあえずこの街で生計を立てていこうと思っていた矢先に、巻き込まれました。」


うん、嘘はついてない。


「まぁ、では出身の国は?」
「・・・マルクトです。」


はい、嘘をつきました。

『日本国出身です☆』とか言っても、不審者扱いされるだろうからなー・・・うぅ、何でこんなメに。

「巻き込まれて災難でしたね。怪我が無くて本当によかった。」

女の人は心の底からそう思ってくれているのかとても眩しい笑顔を向けてくれる。
とりあえず私は『悪運は強いんです〜』と笑って返した。

「よく魔物や盗賊に襲われないですみましたね・・・さんはどちらの出身なんですか?」
「あー・・・エ、園芸部?」

赤毛のお兄さんの地図で見た覚えやすい名前を搾り出す。
微妙に間違っていると思っていたんだけど、女の人は変わらない笑顔を向けてくれていた。

「ああ、あの第一産業が盛んな村ですね。
 それにしても、珍しい家名ですね。私初めて聞きました。」
「あはは、初めて会った人にはいつも言われます。」
「随分とお若いみたいですけど、もしかして家出とかではないですか?
 帰れないと言っていたし・・・」

うぬっ そう受け取られたか。

「やはは〜そんな度胸無いですよ〜
 家って言うのは大切な城ですから、そうホイホイ捨てられませんって。」
「若いのにしっかりしているのね。そういえば貴方はおいくつ?」
「今は19ですね。」
「あら、私もっと若いかと思っていたわ。」
「嬉しいのかどうか複雑ですね〜」

嘘を混ぜ込みながらたわいも無い会話を続ける。


早く。早く終わってくれ。


統率の取れた軍を相手に嘘を吐き続けるなんて胃に悪い。
私の脳みそ、そんなに優れていないんだから余計に!


テーブルに置かれている、私へと差し出された水を口に含みつつお姉さんが紙に記入している様子を見つめる。
スラスラと流暢に書かれる文字は、本当にちんぷんかんぷんな羅列だ。

「はい、できました。さん、一応確認しておきますね。」

ぱしんとペンを机に置き、女の人は紙をくるりとひっくり返して私へとその文面を向けた。

「今回お聞きした調書は、あなたのお名前と年齢、出身地、この街を訪れた理由、それから事件に巻き込まれた事が簡単に書かれています。」
「あ、―ハイ、そうですね。」

それらしく書面に目を滑らせて私は納得したような笑顔を浮かべる。
ハイハーイっ ちんぷんかんぷん!

とりあえず適当な相槌を打って私は頷く。
こんな通りすがりの被害者にちゃんと確認業務を行うなんて、なんていい国だ。
この街に希望の光を見出した私は、お姉さんに先を促す。

「はい、ありがとうございます。ではこれからこの調書の方を提出してきますので、あと5分ほどここでお待ちになってもらっても良いですか?」
「お姉さんが相手ならいくらでも待ちますよー」

そして垣間見えた開放の兆し!
諸手を挙げて喜びを露わにしたい気持ちを抑え、私はもう一度彼女を先へと促した。

どうぞ行ってくれ。そしてすぐに帰ってきて!

綺麗な姿勢のままこの部屋を出て行く女の人に笑顔で手を振って、そこでようやく一息をつく。
木製のイスの背もたれに脱力した背中を預けながら天井を眺めた。


アスラン・・・は、名前か。
フリングスさんにここに連れてこられた時は同じ鎧を着た人の群れによっぽど逃げてやろうかと考えたけれど、よかった・・・暴挙に出なくて。
人生何とかなるものなんだな。

しかし盗賊に襲われたと思ったら、今度は暴漢か。
そして盗賊のときは赤毛のお兄さん(年下扱いはできない)で、今度はソファーに助けられる。

・・・そんな人生のスパイスなんていらない!

赤毛のお兄さんのことを思い出して私はハタと気付いた。
あの、男に引き摺られる際に見えた、驚愕の顔。

・・・よくよく考えたらとんでもない別れ方をしてしまった。


「・・・」


コップに残っていた水を全部飲み下す。
ああ美味しい。

・・・

まぁ、アレだけの騒ぎだったから、私の無事の噂ぐらいは彼の耳に届いているだろう。
その辺りの抜かりはなさそうだ。
うん、だからいいや。
私が改めて彼にお礼を言うのは、私がそれに見合ったものを彼に渡せる時にしよう。



『……ぇ……−……−っ…』


女の人が出て行ったドアの向こうから、小さく話し声が聞こえた。
・・・ん? 今の声、さっきのお姉さんのものじゃないかな?

聞き覚えのあるそれに妙な予感を覚え、私はそっとドアに近づいた。


『カーティス大佐がいらっしゃるって、どういうことです。』

『詳しくは聞かされていないんですけど・・・ともかく、一度話をしたいそうで。』


カーチス? いや、カーティスか。
何それ・・・もしかして例のソファーの事について聞きにくるんじゃないでしょうね?
だとすると物凄く困るぞ。
大佐という階級の人間がどういう役割なのかまったく知らないけど、やばそうな予感はビンビンだ!


『珍しい服でしたけど、普通の女の子だったんですよ?』

『ともかく、すぐにお通しすると思うから。』

『は、はい。』


す、すぐー!?
いかん、相当嫌な予感がする!
カーティス大佐とやらに、尋常じゃない嫌な予感を覚えるぞ!

私が感じる悪寒に押されるようにしてドアから離れようとした、その時―


『早く中の子にそれを伝えて―』

『その必要はありませんよ。』

『た、大佐!?』


困惑の声と落ち着きのある、低い声が続いた。
ゾワリと全身の毛が逆立つ。


―キタ!!
キタ!!来たーッ!!


考えるより、体が先に反応する。
その場で反転したかと思うと、私の体は一気に駆け出す。
向かう先は、窓。


『―待ちなさい!」


ドアを隔てた声が鮮明になったことを背中に聞くが、私は振り返らずにイスの横に置いていた鞄を引っ掴んだ。
声の主であるカーティス大佐と思しき人影がいるのは、ドアの付近。
対する私は、外に開けられた窓枠の傍。
私は鞄を抱えたまま懇親の力を込めて跳躍する。
そして勢いに浮いた右足で窓枠を踏みしめて、伸び上がり様に飛び出す。

温い空気と、こもる湿気が私の頬を撫でた。


 !!」


背中から、大佐とやらが叫んだ声を聞いた。






お? ファミリーネームが前じゃなかったか? 今。






 ギュムッ


左足から踏みしめた地面がおかしな音を立てた。
続いて付いた膝がその地面に触れると同時に、全身が脊髄反射を返した!

「―ヒ つべたぁぁぁあぁぁぁぁッ!!!!」

弾かれるように体を浮かせるが、私は白い何かに足を取られてしまった。
バランスを崩した私の視界に写ったのは一面の銀世界。


 どしゃっ


バランスを崩した私は、転 倒 !!

「〜ッ!! ーッーッ!!!」

大して痛くもないのは、私が倒れたその場所が柔らかい雪だったからだ。
ありえない!ありえない!!
悲鳴すら凍りつきそうな寒さに、改めて全身を救い出す。
ガチガチと歯を震わせながら自分の体を抱きこむようにして体温の放出を阻止しようとするが、極寒もいいところのこの場所ではあまり意味がない。

大雪だ。
豪雪地帯だ。

私がさっきまでいたのは、砂にまみれた乾いた街だった。


・・・え、何。 何これ。 また?


私の視界にあるのは、雪と森。
・・・・・・えーと。

「ざっ ざぶい!ざぶい!!」

プリーツスカートにブラウス一枚の私が、こんなところに立っていて無事なはずがない。
叫ぶのは当然だが、空けた口内までもが凍りそうだったので私はすぐに口を閉ざした。

凍え死ねというのか。

信じられない。訳がわからない。

何があっても驚かないつもりだったけど、そんな、事を言っている場合じゃない!
ガクガクと震える足を前へ踏みだし、雪を掻き分けて私は進む。
道も何もない木々が点在する森を競歩並みのスピードで歩く。


死ぬ。

本当に死んでしまう。

なんで私が、こんなメに。

死ぬなんて冗談じゃない!


確かに歩み寄ってくる『死』という現実に反吐を吐いてやりたい。
いやだ・・・死にたくな・・・い・・・

無彩色以外には薄い青と枯れ木色ぐらいしかなかった視界の奥に、突然鮮やかな深緑が出現した。
思わず足が止まる。


「・・・・・・・・・?」


凍りかけていた脳みそが、その、深緑の長方形のものを凝視させる。
止まっていた足を再び動かしてそれへと近づいていく。

ん? んん?

背の高い長方形に数段の引き出しと、両開きのドア。
程よい奥行きを携えるそれは普通の一般家庭でよく見かけるそれだ。
間近に立てば皆まで言わなくても分かる。


「・・・た、タン・・・ス・・・!?」


タンス。タンスです。
深緑と白の二色で色づけられている2mくらいの高さのタンスだ。




「・・・な、なんでじゃコラーッ!!??」




在りえない。起こり得ない。

無茶苦茶だ。なんなんだ一体!?













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2007/02/28

 再び見失う自分の居場所。


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