4:ミートドリア





降る雨

来る時

過ぎる声


届かない

足りない

何も無い


散った金属、抉れた土。
闇に浮かぶ赤だけが、鮮明だった。










4.ミートドリアにろうそく立てて ハッピーバースデー♪










ぜはーっ ぜはーっ はーっ はぁっ  ―げほげほげほ


肺が! 横隔膜が! 腹筋が! 胸筋が痛い!
ありえないぐらいの全力疾走を強いらせた体の悲鳴が聞こえます。


「煩いぞ貴様。」


全身の乳酸と戦う私に、息切れ一つしていない男が言い放った。
恩人じゃなかったらどつくぞ。

言い返してやりたいところだけど私はとてもそんな状態ではない。
この人が足を止めたところをみると、きっともう安全なのだろう。
そう信じて私はあちこち痙攣しだしそうな足を投げ出して地面に座る。

「・・・あ、りがとうございました。」

礼を言えるのは人間の美徳だ。
男の顔も見ないで言い放ったことは正直大人気ないと認めるが、自己満足の範疇でしかないので私は気にしない。
鞄を漁って中からタオルを取り出し、汗でべとべとになっている顔やら首やらを拭う。
おろしたてのふかふかのタオルは気持ちいいー。
ついでに中身を漁ってペットボトルを二つ取り出す。二つとも中身は水だ。
一つは自分用なので、もう一つを男へと掲げてみる。

「いかがですか?」

咽ている女の子に対しての先ほどの発言を考えれば、受け取りそうも無いのだがまぁ社交辞令というやつでして。
私よりもこの現状を理解している人間は貴重なので、腹を割った話をするには食料を使った懐柔が一番手っ取り早いのですよ。貴重な物資を分けるということで、彼に対する不審の念が無いということを主張する意味でもある。

・・・日本国内で何でこんなに殺伐としたやり取りをしなきゃならないんだ。

「・・・なんだこれは?」

すぐさまあしらわれるかと思っていると、想像だにしていない反応が返ってきた。
永住していそうな眉間のしわが無くなって綺麗な碧眼が軽く見開かれている。


・・・あれ、何、この人結構若い?


「これは、水ですけど・・・」
「・・・・・・」

あっ 眉間のしわが二割増しで復活!
なんだよその、言われなくても分かってるみたいな視線は。
分かっているなら聞かないでくださいよ。

ぽこんと音を立ててそれを地面に置き、私は自分の分のペットボトルを捻る。

「私が喉渇いたんでついでにどうかなーって思ったんですが。
 別に変なものは入っていませんよ。」

言ってぐびりと中身を呷る。
いまだに熱を持っている喉に冷たい水は最高の癒しだ。

はふー 生き返るー

私がペットボトルをいきなり突きつけたことを不思議に思ったのかな。もしかして。
深い意味は無いんだけど、まぁさっきの男達を相手に大暴れしちゃう人間だから、警戒心が強いのかもしれない。
あんな奴らのお仲間だとは思いたくないけれど、この格好に真剣だし・・・お仲間なんだろうな。


考え始めると変なことばっかり。
轟音をたてて地面を焼いた薄いグリーンのあの光もひょっとしたらこの人の仕業の可能性が高いし、私を殺そうとしたあの人を斬り捨てたことだって傷害罪確実だ。あの集団が起訴するとは思えないので捕まりはしないだろうが。
ひょっとしたら私がここに連れてこられた理由でも知っているかもしれない。


「えーと・・・ちょっとすみません、聞きたい事があるんですけど。」

儚い祈りを込めて返答を求める。
ペットボトルをじっと直視していた男は、私へと視線を向けた。




そのとき、心臓がびくりと震えた。




改めて、私の目の前でその色彩を放つ『赤い髪』と『緑の瞳』。



直感で分かった。
これは、本物の色だ。



カラーコンタクトでも、染めているわけでも、ウィッグでもない。
自然体の発色。




「・・・・・・・・・ぁ・・・・・・」




全身が、総毛立つ。





ここは





ここはどこだ?






「・・・?・・・おい。」

形のいい眉が顰められる。

知らないものを見る目を私は知っている。
不確かな物に対する不審の視線を私は知っている。



彼が私を見る目が、それなのだ。



引き攣りそうになる喉を叱咤して震えを止めて、私は声を紡ぐ。
間違えちゃいけない。


導きたい答えに繋がる式をください。


「ここで、信仰されている神様って、何ですか?」



世界は『マルクト』『キムラスカ』

防犯ベルは『未知の物体』

帯刀は『当然』

殺傷・斬り付けは『必要に応じて』

『赤髪』はありえなくは無い



設定にしてはおかしいだろう。
無理がある。



「・・・妄信されているのは『予言』で、それを管理しているのが『ローレライ教団』だ。」

「使われている言語は?」

「フォニック語だ。」



男の視線には不審と、それが当然だと言う揺ぎ無い真実の光。





ああ、そうか。そうなのか。

そうなんですね。



ゆっくりと仰向けに倒れて、私は高い空を望む。

青い空と白い雲と、変な石の塊たち。





ああ、そうか、そうなんですね。



『キムラスカ』も 『マルクト』も 『スコア』も 『ローレライ教団』も 『フォニック語』も

私は知らない。


そこまで凝った設定をするマニアさんたちがいるなんて思いもしない。

私が抱く違和感はここでは当然なのだ。




「お前、何者だ?」


不審と困惑が一つになった声は、黒と赤の男と真逆の白と青の色彩に溶けた。
慌てようもないので、私は、はじき出せた結論を彼に返す。



「迷子、みたいです。」







それも。
ありえないぐらい、どでかい規模の。













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2007/02/06

 非現実がどうした。 体感している現実を否定できるほど、私はご都合主義ではない。


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