2:ラザニア
2:ラザニア
言葉はいつも不十分。
親身になって話そうとするなんて、なんて傲慢なことだろう。
私に近づくなんて止めてくれ。
充足するほど、言葉を与えられた記憶なんて無い。
それを補える言葉など、この世にあるはずも無いのだ。
2.熱々のラザニアをパイ投げの要領で
お父さん、お母さん。
そして愛すべき友達よ。
はちょっとピンチです。
なにがどうピンチかというと、なんと驚き。
私の目の前には奇抜な格好をしたおじさんが、3人連なって立っています。
聞いて驚け、なんと外人さんだ。
なんだろう・・・コレが俗に言う戦争マニアとかゲリラマニアとかいう方々なんだろうか。
私が記憶する限り、その方々はおおよその確率で迷彩服を着こんでいて、改造エアガンなどをフル装備している。―と、覚えているんですが、今はひょっとしてこの人達のように原始的なナイフや剣を装備するのが流行っているんでしょうか?
おっさんたちは迷彩服ではなく、まるで海賊のようなびらびらぴっちりの服で、剣やナイフを持っている。
まあ、時代は色々流れているからそんなマニアさんがいてもいいでしょう。
うん。ネットの普及でそんな人たちが山奥に潜むぐらい、どうって事はない。
ただ、
そういうことは身内だけでやって欲しい限りでして!
何で私はその得物を向けられているんでしょうか?!
「へっへっへ、どうした? 怖くて声もだせねぇのか?」
くすんだ金髪のおっさんが一人、驚くほど流暢で汚らしい声を吐き出した。
いえいえ、そんなことはありません。
恐怖よりも困惑のほうが強いだけでありますおっさん。
「・・・すみません。声は出せます。
何がどうなってこんな事になっているのか、できれば簡潔にお教えいただけないでしょうか・・・?」
「アぁ? 何だこいつ、馬鹿か?」
むかっ
見知らぬおっさんに、馬鹿扱いされるとそこはかとなく苛つきますな!
しかし、大人の遊びにいちいち目くじらを立てていては話が進まないことは、コレまでの人生にきっちり学んでいる。なんて人生だろう。
「この際そんなことどうでもいいんです。
ここはどこですか?街、もしくは村へはどうすれば行けます?むしろ警察は?
なんだったら携帯電話貸してください。」
ひとしきりの要求をぶつけると、男達はあまり整えられていない眉を盛大に歪めた。
・・・いかん。質問を間違えたかもしれない。
よくよく考えてみればこのおっさん達は今私に凶器を向けているんだ。
深く考えなくともこの人たちは善良なマニアさんじゃない。
・・・・・・まずった。
やばいやばいやばい。
不審そうに眉どころか顔の半分を歪めて、男の一人が剣を更に突きつけてくる。
うぉはーっ!やっぱヤバイ!ヤバイ!!
こんな悪質なマニアさんはお人形相手じゃ飽き足らず、小動物をはじめとした身体的・社会的弱者に対して悪戯と銘打った破壊行動や猥褻行動を行うことが、昨今の社会が抱える問題でありまして!!
あぁっ 私混乱してる!!
「あ、あのあのっちょっと待ってください。
お互い話し合いましょう。ひょっとしたら利害が一致するかもしれません。
だからほらっ、剣を近づけるなって、お願いだから!」
刃物は包丁ぐらいしか持ったこと無いんです。
刃渡り30センチを超える包丁だったけど、それとコレとは話が別なわけで!
「話すことなんざねぇよ。
ホラ、とっとと連れて行くぞ。」
「へい。」
リーダーっぽい男の一言で、剣を突きつけている男の一人が私の左腕を掴む。
ゴリゴリざりざりとしたその掌の感触に腰から首上まで鳥肌が立った。
き、気色悪い!!
ゴヅッ
「あ。」
思い立ったら吉日生活。
でも考えずに行動したらドツボだよね。
男の顔面に埋まった自分の腕を見ながら、私はそんなことを考えた。
鼻っ柱に直撃した一撃によって、男は身をそらせてその鼻筋から血飛沫をあげる。
「わああぁぁぁぁっわあぁぁっ! わああっ!!」
走る走る。
草を踏みしめ、枝を掻き分け、根っこを避けて、幹にぶつかり、それでもなお走る。
痛い。
足も腕も。
痛い。痛い。
ああっ この靴で最低3年は過ごしてやろうと目論んでいたのに、こんな扱い方をしては1年も持たなくなってしまう!
こんにゃろ!警察の出番の時にはその分慰謝料を請求してやるからな!!
慣れない痛みに悲鳴を上げる体を誤魔化すために心の底で悪態を吐く。
警察に通報するためには事件として立件させなければ!
そうでもしなければ警察もただの木偶の棒だ。
いや、刑事事件として対処されたら慰謝料とか関係ないのか。
ああぁ 空振る思考が情けない!
違うだろ!今考えなければいけないのはそんなことじゃない!
「待ちやがれクソ女!!」
誰がクソ女だこの駄男が!(※駄目男の略)
背中側にぴったりくっついている足音と罵声に涙が出そう・・・うわーん、こんな低俗な悪意の持ち主に殺されるなんていやだー!
これが口論争とかなら完膚なきまでに叩きのめしてやるのだが、相手は抜き身の剣を平気で他人に押し付けてくるような奴だ。
そんな平和的な解決にはならないだろう。
面倒くさい!面倒臭い!!
体力低下に悩まされる現代人に無茶をさせるな!
後ろの奴が二の句を告げなくなるような事を言い返したいけれど、私の口は呼吸をするので精一杯だ。
そうこうしているうちに目の前の茂みがいきなり晴れる。
しまった、広い場所に出ては私が不利になるじゃないか。障害物があったから小柄な私が有利だったわけで、直線距離になれば追いつかれるのはすぐそこだ。
慌てて辺りを見回して入り組んでいそうな場所を探す。
と、信じられないものが私の目に入った。
土と草が入り混じって開けたそこには、紺色の生地に銀の縁の見慣れたもの・・・
「なっ 私の鞄!?」
よろけながら駆け寄って両手で引っつかむと、覚えのある質感が掌になじむ。
間違いない、このくたびれ具合といい色あせ方といい、私の鞄だ。
何でこんなところに・・・
「何してやがるテメェ!!」
詮索している暇はない!!
響く罵声に煽られるように鞄の中に手を突っ込む。
震える足で何とか立ち上がり、森から抜けた男から少しでも離れようと足を進める。
「おかしなことしやがって・・・逃げんじゃねぇよ!」
「あうっ!」
いきなり髪の毛を掴まれて後ろに引き倒される。
き、汚い手で私に触るな!ばっちい!
仰向けに地面に転がる私の頭上に、男が下卑た笑みを浮かべて立っていた。
「いい様だな、ええ?どうして欲しい?
このまま犯されるか、先に殺されるか、好きな方を選ばしてやるよ。」
いやだ。汚い!このおっさん汚い!!
「どっちも嫌じゃボケーッ!!!」
チッ ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!
鞄の中のわっかを思いっきり引き抜くと同時にあたりに騒音が鳴り響いた!
う、うるせー!
住宅地じゃないと意味のない防犯ベルの騒音に、男はまともに顔色を変えた。
音の発生源である私の鞄を注視し、慌てて私の頭上から飛びずさる。
「―な、なな、何の音だ!?」
「うりゃあぁぁっ!!」
怯えを含んだ男の顔面に加減無く防犯ベルを投げつける!
残念、それはあっさりと避けられた。
男を飛び越して地面に落ち りりりりりり・・・ と音を響かせる防犯ベルを、男は恐々と眺めて引き攣った声を上げる。
「あ、アレは何だと聞いている!?」
「―でぇい!!」
狼狽した隙を逃してなるものか!
ばしゅぅっ!
そして、続けで放ったレモン色の煙が振り返った男の顔面を覆う。
「―ぎゃあああぁぁぁぁっ!!!」
「お、おわっ」
直撃を受けた男は、ありえないほどの絶叫を上げた。
その手からこぼれた剣が物々しい音を立てて地面に落とされ、両目を押さえた男も地面に倒れる。
え、何?何でこんなに大げさなの?
痴漢撃退スプレーってこんなに効くんだ。
・・・・・・えーと。
「・・・早く目を洗わないと失明するよー。」
・・・
「―なーんて」
「ひ、ひいいぃぃいぃぃぃぃッ!!」
苦痛にのた打ち回っていた男が顔色を変え、悲鳴を上げて転がるように逃げていく。
な、まさか、こんな小娘の戯言を信じたのか!?
普通に考えてみれば分かるでしょう!
そんな失明させるような薬物をいたいけな女子高生が持っているわけ無いって!
などという私の心の悲鳴は男に届くはずも無く、私は茂みに消える男の背中を見送った。
いまだに鳴り続ける防犯ベルをBGMに私は剣を拾って息を吐く。
さて、もう一度考えをまとめよう。
私は、学校の更衣室にいました。
気がついたら海と森を望める草っ原にいました。
ようやく見つけた人達はとんでもないマニアさんで、いきなり襲われました。
ハイ、何も判明していませんね。
「某映画じゃあるまいし・・・『殺し合いをしてもらいます』ってか。
超笑えないんですけど。本気で。」
手にしたそれは金属らしい重量感。
その刀身自体は所々汚れて刃こぼれしていて、持ち主の扱い方がどんなものかが予想が付く。
こんなもので殺そうとしたのか。
こんなもので、私を、殺そうとしたのか。
・・・面白くないな。
まあ、風呂場のタイルで滑って転んで死んでしまうようなこともあるんだから、通り魔に剣で滅多刺しっていうのも無くも無い話だけど、ゴメン被りたい死に方ではある。
剣をほっぽり出して、左手に持ったままだった鞄を漁って水の入ったペットボトルと板チョコを取り出す。遭難している事実には変わりは無いのでチョコを一欠けと水を一口だけ口にする。余計な体力を使った先ほどの状況が恨めしい。
そこでハタと気づく。
・・・あれ? 男達は3人だったよね。
何で追いかけてきたのは1人だったんだ?
・・・嫌な 予感が ビンビンだ。
まて、ここでそんな可能性を考えるのはヤバイ。
何がやばいって、こういう事象にはパターンというものがあるからですよ。
複数の出来事が重複するとおのずと展開は決まってきてしまうわけで、それを考えてしまうと―
『見つけたぞー!!』
男の低い、叫び声。
私は出していた荷物を瞬時に鞄に突っ込んで、疲労に喘ぐ全身に鞭打って再び走り出す。
鳴り続ける防犯ベルはそのままに、向かうのは森の奥の奥。
お父さん、お母さん、友人達よ。
は地味に、果てしなくピンチです。
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2006/12/26
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