01:忍たま夢
我が家の出口は入り口でした --01
口の中に押し込んだ食パンの最後の一口をコーヒーで流し込み、両手を合わせてごちそうさま!手際よく食器を片付けてエプロンを外し、歯を磨いて身支度を整える。
顔、おっけー。
髪、おっけー。
スーツは上着を羽織るだけ。
よし、今日は大事な会議があるのだ。
このプレゼンが成功するかどうかで、今後の仕事の道筋と、私の愛すべき休暇の予定が決まる。ここ半年ほどの業務内容の集大成だ。
よぉっし頑張るぞ!
頑張るぞー!
鞄の中に確かに入れた書類の内容にも不備はないだろうし、目覚めも快調、時間も余裕。さあ!いざ行かん!
意気込みも十分に上着の袖に腕を通し、鞄を肩に掛けてパンプスを履き、私はそこにある玄関のドアを開けた。
明るい、久しぶりの休暇は目の前だから―あ、あれ?
そこで硬直する。
いや、だって、あれ?
うちのマンションの廊下は、いつの間に畳座敷に変わったんだ?
思わず踏み出しかけていた足を引っ込めて、見上げてみる。
うん、どうみても我が家の玄関だ。
振り返ってみても、見慣れた我が家の部屋しか見えない。
予想だにしない事態に、辺りを見回すが、何が変わるわけでもない。
玄関を出てすぐの、北向の廊下は?
そこから見える街並みは?
え っと…
え、何これドッキリ?
いやでも、私なんかにドッキリを仕掛ける意味がない。
こんな朝っぱらから、悪趣味にも程がある。
常識の範疇で把握しようと、私は玄関の向こうに顔を出し、窺い見たそこは、床の間までしっかりとある立派なお座敷であることを確認した。
こ、これは夢?幻?
私、とうとう働きすぎて幻覚を?
そっと足を踏み出してみれば、靴越しに伝わってくる感触は、確かに畳そのものだ。
吸う空気も、畳の匂いと一緒に木造家屋らしい木の香りまで含んでいた。
障子の向こうから透き通る光は、日光そのもの。
夢とも幻とも思えない。
い、いったいどうなってるんだこれは!?
スッパアァァァン!
「曲者ォォォ!!」
突如開いた障子からの絶叫に、私は飛び上がって驚き、そちらへ目を向けると一人のご老体がそこにいた。
ってか、くせ者って。
「儂の命を狙っておるのか!?」
「ええぇぇぇ!? そんな馬鹿な!!」
いりませんよそんなもん!
人の命一つで人生を棒に振るほど、私は馬鹿ではない。
しかも今のご時世、不審者を前にして命の云々かんぬんを連想するってどうよ。
「ええぃ黙らっしゃい!老いたとはいえ、この大川平治渦正を舐めるでないわ!」
「は、話を聞いて って、うわっひゃぁ!!」
宥めようとする私の声が届くこともなく、怒鳴る大川さんは両手に…手裏剣?を取り出して私へと投げてきた!
NINJAかよ!
良い歳こいて!
間一髪で避けた私偉い!
「か、か、カメラはここかあぁぁぁ!?」
手裏剣が突き抜けていった障子へと、私は全身を投げ込んだ。
カメラや観客がいるとするのなら、ここしかあり得ないと思ったからだ。
―が、そんな考え空しく、私の足は板張りの廊下を越えた、庭木の溢れる庭に落ち込んだ。勢いを殺せなかった私の体は、そこへと無様に転がり落ちるしかない。
い、い、痛い!
「あだだだっ な、なんで…」
なんで、空があるの。
庭だっておかしいよ。
そんな大規模のドッキリあり得ない。
あり得ないはずなのに、我が身に起こっているこれはいったいなんだ。
燦々と降り注ぐ日光。
土の匂いと風の柔らかさ。
どれも夢だなんて思えない。
夢じゃなかったらこれは一体なんだ!?
「今じゃヘムヘム!!」
「へむぅ!!」
混乱の極みに呆然としていた私に、廊下に躍り出てきた白い何かが投げ放ったロープが絡まってくる。
「わ、わわわ!」
「ほっほっほ、他愛もない!さあ、どこから忍び込んだのか、吐いてもらおうかのぅ。」
「へむ!」
仁王立ちしてそう言ってくる大川さんの隣には、ロープをなげただろう…頭巾をした動物が二本足で立っていた。
わー、私そんな動物見たことないよ!
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2012/07/23
騒々しさが
似合わないくらい
朝の光は澄んでいた
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