03:復活夢
復活夢 --03
「つっ君〜具合はどう?」
ベットの傍のちゃぶ台に置いてあった水を飲んでいると、明るい声と一緒に扉を開けられた。そこから顔を覗かせたのは随分と若い印象を受ける女の人だった。
ぱっと見の印象が例の生徒君を髣髴とさせる。
「ちゃおっすママン、すっかり熱も下がったみてーだぞ。」
「リボーン君、ありがとうね看病してくれて。」
ママンってことは、お母さん?
呼び方からして勿論綱吉くんのお母さんなんだろう。
にこにことリボーンくんにお礼を言った彼女は手にお盆を持ってそのまま部屋の中に入ってくる。
あわてて先にそのお盆を受け取ろうと膝を上げたら、リボーンくんから軽くズボンの端を引っ張って止められた。
「まだ顔色がちょっと悪いわね、お粥作ってきたから食べなさい。
食欲無くてもちゃんと胃に食べ物を入れてなきゃ治るものも治らなくなるわよ。」
にこにこと笑う笑顔が非常に眩しかった。
「ママン、ちょっと話がある。」
「あら、どうしたのリボーン君。」
硬直する私の隣からのリボーンくんの言葉に、彼女は自然に話しを先に促した。
えー やっぱり赤ん坊と何食わぬ顔で会話するってことはこれ常識?
「実は調べてみてわかったんだが、ツナがかかった病気は『ウッカリ熱病』っていってな。」
なんじゃそりゃ。
「それにかかっちまうと、うっかり記憶を忘れたり性別が変わったりしちまうらしい。」
な ん じゃ そ りゃ ??
ぎょっとしてリボーンくんに振り返るが、彼はお母さんのほうをじっと見つめていた。
いや、なんなのそんなファンシーな言い訳は!?
綱吉くんがどんな人間かもわかっていない私が彼のふりをするには無理があるとは思っていたけど、まさかそんな大嘘を!?
「まあ! つー君、もしかしてお母さんのこともわからないの!?」
「ひぇっ ご・・・ごめん、なさい・・・」
勢いのまま私のすぐ隣の床に膝をついた彼女にいきなり顔を近付けられ、思わず背を反らしながら謝る。
その瞬間、驚きに染まっていた表情が悲しみに変わった。
えっ や 泣かないで。
「な、泣かないでくださ」
「もしかして女の子になっちゃてるの!?」
「は ・・・はい。」
柄にもなくついうろたえてしまったところで肩をわしっと掴まれた。
「たしかにお母さん、つー君みたいな女の子も欲しかったとは言っていたけど、なにもアナタが女の子にならなくてもよかったのよ!?」
「いやいやいや、好きでなったわけじゃないから!」
信じたのか!? 信じたのかこの人!?
綱吉君!あんたすげー母親持ってるよ!!
「お父さんになんて説明しましょう・・・」
「午後一に名医を呼ぶことにしたから安心しな。
オレがどんな手を使ってでも治してやる。」
「・・・私に何か出来ることは無いかしら?」
私の肩から手を離したお母さんはリボーン君に視線を戻し、はっきりと聞いた。
この人、強い人だ。
お母さんなんだ。
泣きたくなってきた。眩しいひとだ。
「―ごめんなさい。」
思わず口を突いて出た謝罪。
先ほど泣き腫らした瞼が熱い。目尻が痛い。
リボーン君とお母さんの視線が私に向けられる。
「どうしてツナが謝るの? 熱が下がってくれてよかったじゃない。
大丈夫よ、アルバムだってビデオだってあるんだから、いっぱいお話して思い出しましょう。」
「ごっ ごめん、なさい。」
涙腺決壊だ。
こんなに素晴らしい人に愛されている綱吉君の居場所を奪うなんて!!
「ごめんなさい・・・ごめんなさい。」
「いいのよー、元気なってくれたらお母さん一番だわ。
ほら冷めないうちに食べちゃいなさい。お腹すいてるから余計に気分が落ち込むのよ?」
「うぅっ う、ごめんなさい・・・いただきます!」
これは堪える! あぁぁもう、涙もろくっていけない。
この人格好良すぎる!!
涙を拭いついでに水が入っていたペットボトルをどけて自分の前にお粥をもらい、私はいそいそとレンゲを掴んでおいしくいただく体勢にする。
お腹が空いているのは本当だった。
隣にいるリボーンくんに軽く目配せしながら一人用の土鍋の蓋を開ける。
「つー君近頃ずーっとバタバタしてたから、神様が休めって言ってきたのかもしれないわねぇ。・・・そうだわ!せっかく女の子になったんだから、お母さんと一緒に買い物に行きましょうか?」
表面にお塩が振られているのか、只者じゃない(※おいしい)お粥の二口目を頬張ったところで提案された。
「・・・・・・買い物?」
「そうよー せっかくだから下着と洋服を買いに行きましょう?」
もぐもぐごくんと嚥下して聞き返すと、彼女は明るい笑顔を返してくれた。
あーなるほど。たしかに私が今穿いているのはトランクスだ。
女の子が穿くものじゃない。
「―いやいやいや! 元に戻ったら資源ゴミになるだけじゃないですか!」
「下着は資源ごみにはならないのよー」
ああっ 突っ込む着眼点が違う!
「じゃなくって、女になってるって知らない人が見たらただの変態に!」
そう、なによりも私が守らなければいけないのは綱吉君の平穏なのだ。
デリケートな思春期の子供に、女の子の格好をするなんてそんなトラウマを植えつけるわけにはいかない!
断固として防がなければ!
「大丈夫よ。つー君とっても可愛いわ。」
そんな私の決意もむなしく、彼女はまた笑った。
わかってくださいこの危機を!
「お母さんの血ですかね! ―リボーンくん、援護を!!」
「・・・ママン、とりあえずツナはまだ病みあがりだ。
そーゆー話は、こいつが元気になってからのほうが面白いだろう。」
おおお面白いだなんてアンタ!!
それでも援護してくれたことは事実! ありがとうリボーンくん!
「あらやだ私ったら。それじゃあリボーン君もご飯にしましょうか。
食器はそのままでいいからツナもちゃんと食べてしまうのよ?
食べてしまったらお医者様が来るまで寝ときなさいね。」
眩しい彼女のお言葉に、私は手に持つレンゲを握り締め頭を垂れた。
「ぉ・・・おいしく頂きます・・・」
説き伏せるだけの体力もありません。
弱い私を許してください綱吉君・・・!
お母さんに連なって歩いて出て行くリボーン君の「ちゃおっす」という可愛い声に片手を上げ、それを軽く振る。
朝早くからあの子も付き合わせてしまったんだな・・・申し訳ない。
心の中で謝罪をしてお粥に向き直る。
もくもくと咀嚼する温かいお粥の美味さに幸せが絶えないけれど、頭の混乱具合は伊達じゃない。
しかし、私自身が女物の服に抵抗が無いとはいえ、正しくは男の子な綱吉君にそんな格好をさせるわけにはいかない。
どうやって断ればいいだろう・・・
あのお母さん、なんだか女の子に凄い幻想持ってるっぽいなー。
一緒にはしゃげるほど私ピュアじゃない!
ああしかもお父さんとかも話題に上っていた!
息子が娘だなんて非常識にも程がある。お母さんは天然ぽくて、あんな無茶苦茶な理由で納得してくれたけど・・・一人でも常識人がいたらアウトだ。
あぁぁぁ 非常識人ばかりでありますように!!
そんな思考こそが非常識だってわかってるんだけどね!
でもそれ別の意味で泣けそう。
でも、非常識人たちが懐かしい。
・・・ああ、私も大概病んでるなぁ。
戻りたいと望む場所が多くなる。
それは私の生まれた場所で、私が生きたあの人の隣で、私が得た信頼の中だ。
生まれた場所は一つ。
あの人もこの世には一人。
失った信頼は別空間の先だ。
そのどれか一つでもいいのに、私の望みは叶えられた試しがない。
何でこんなにも孤立を続けるんだ。
そのうち『死』でも望むんじゃないかと思う。
絶望はそれだけ殺傷能力のあるもんだ。
まだ、死にたくないけど。
泣くぞ。泣いたし。
レンゲの底で土鍋のふちを叩く。硬い音。
思考を現実に戻す。
「・・・ごちそうさまでした!」
大変おいしゅうございました! げふっ
先ほども考えたように、私を『私』だと証明するのは私しかいない。
私が迷うことは、私自身を霞ませることにしかならないから。
リボーンくんやお母さんみたいに懐の広い人ばかりじゃないだろうからな・・・衝突は必須。その辺りを是非ともリボーンくんと相談したいものだ。
「・・・さて・・・」
立ち上がってみたら全身が重い。
風邪を引いたあとの倦怠感だ。
けど、思っていたよりも楽だったし、これは治りかけの疲労なので喜ばしい。
たっぷりと時間をかけてお粥を食べたのだ。もしかしたらリボーンくんが戻ってきてくれるかもしれない。(そしてもしかしたらこの家の方々に話をしてくれているかも。)
「トイレに行きたいんだけど出てってもいいんだろうかねー・・・」
実際問題はコレ。結構重要です。
・・・だって生理衝動だ。どうしようもない。
尿意があるっていうのは熱を下げる為にはいい傾向なんだけどね。
・・・
行っちゃうか。
こーゆーことを我慢する性質じゃないのよ。
それでも思わず足音を殺してそろそろとドアに近づく。
そっとドアノブを傾けて廊下を覗き見る。見えるのは板目と壁だけ。
一般家庭の、普通の民家の装丁に結構泣きそうになる。
トイレは下かなー・・・ドアを少し大きく開いて首を出すと、丁度顔を向けた階下に続く階段から人の頭が生えた。
黒い髪のつんつんした短髪の、やけに目つきが鋭く頬にはくっきりはっきり傷跡がある男の人だった。
まぁ、ものっそい目が合ったわけだ。
「・・・」
「・・・」
私もそうだけど、相手方も言葉を失っている模様。
っていうか外人さんだ!! これはだれだ!?
えーと、えーとえーと!!
「・・・おはようございます・・・?」
「あ・・・あぁ、おはよう。」
お返事を有難う! 日本語が通じることにびっくりだ!
戸惑いが強すぎる表情だけど、それでもありがとう!
間が持たないので私は続けて、小さな声で問いかけた。
「えー・・・リボーンくんから何か聞いてます?」
「いや、アルコバレーノからはまだ何も・・・何があった?」
あるこばれーの? ・・・リボーンくんの苗字か何かか?
「何がも何も自分にもよくわかってないんですよ。
えーと、ただ、今記憶喪失ってことになっているみたいです。」
リボーンくんの設定を引っ張ってきて話した瞬間、男の人が足音を殺してこちらへと駆け上がってきた。
物凄い勢いで迫ってくる驚愕の表情に思わず曲げた腰を反らしかけるが、下がってしまう一歩手前に彼の両手が私の両肩を掴んでそちらへと引き寄せられてしまう。
「あの戦いの後遺症か!?」
なんと不穏 ― てあの、ちょ。
「何の話ッ ―て、あの肩!肩痛いです!
えーとお兄さん落ち着いてくださいー!」
掴まれてる肩がぎしぎし鳴ってるー!!
綱吉君を心配する気持ちはわかりますがご勘弁をー!!
私の気持ちが通じたのか、彼はすぐに短く謝って手の力を弱めてくれた。
弱めてくれただけなので離れることはできないが。
・・・いや、あの、それでなんで肩を揉む?
彼の行動の真意が汲めず、思わず硬直した。
すると、たいした間を置かずに彼は表情をしかめた。
「・・・ボンゴレ、骨格がおかしくないか?」
骨格、ですか。
このぐらいの年の子はそんなに骨格は違わないと思ってたんだけど、そうでもなかったみたいだ。大きな違いは肉付きか?
その疑問は正解です。
けど、私じゃなんて言ったらいいのか分かりません。
「あー・・・詳しい話は、リボーンくんも交えませんか?」
「・・・そ、うだな。ともかく、病み上がりに体を冷やすな。」
「トイレに行ったら、おとなしく戻ります・・・」
彼は短くそうかと呟き、そして気まずい沈黙が残った。
っていうか、ボンゴレって・・・アサリ??
何で綱吉君がアサリ?
色々問い詰めたい気持ちが込みあがるけれどそこは、我慢する。
いや、なんか話が始まらない気がしたんですよ。
あぁぁっ リボーンくん、リボーンくん!
お早いご帰還を願います!!
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2009/04/18
時間軸はヴァリアー編が終わったところ。わーい、ランチアさん!
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