01:復活夢



全身の痛みと重い熱の感覚。
耳の奥の耳鳴りがだんだんと大きくなって、聴覚の次元を超える。
赤かった瞼の色が黒くなった。

その時、白い、白い光が目の前を通り過ぎようとした。

思わず手を伸ばす。
掴んだのは自分のよりも柔らかい手首だ。
それと同時に、焦燥にも似た悪寒が全身を掻き毟ってきた気がした。
俺が嫌悪する未来。自分も他人にも迎えて欲しくない未来。

直感だった。

「行っちゃダメだ。」

自分はわかった。だから引き止める。
行きずりの彼女だけれど、わかったからには止める。
今、自分しか止められない。

「そのまま行ったら死んじゃう。ダメだ。」

握っている手首をきつく握り締める。
死んだらダメだ。
絶対死なせない。

「― 俺が助けるから。」

ちょっとの間こっちにいればいい。










 復活夢 --01





寝苦しさに大きく息を吐く。
苦しい。辛い。
首から足から何までもが熱い。なのに寒気がする。
これは、完璧な風邪だ。
風邪を引くなんて久しぶりだ。なんてかわいそうな私だ。
っていうか風邪を引く余裕なんてあったのか。それにもびっくりだ。

・・・・・・ここは、どこだ?

目を開ける。ここは暗い、部屋だ。夜なんだろう。
私はどこぞのベットに寝かされている。
布団の中を探るように動かせば、自分の熱い体温と同じシーツが汗で湿っていることがわかる。それと、嗅いだベットの匂いは他人のものだった。


なんだかわかった。
ここはあの世界じゃない。


おおぉぉぉっ 長かったあの混乱を乗り越えたのか私。
生きてる。あのでたらめな場所から生きて帰れたんだ。偉いぞ私。

高熱で苦しんでいる現実も霞むほどの感動だ。
夜闇に慣れた目で見るこの空間はあの世界に似ているけれど、似て非なるものだっていうことはわかる。あんなにポンポン簡単に人が死ぬ世界じゃないんだろう。
・・・元の世界なら嬉しいな。
いい加減、権利関係や生存報告をしないとまずいことになりそうだし。
帰りたいんだけど、今は高熱。
そもそもここが私の世界とは限らない。



ああ、信じる心を返して神様。ガッデム。

なんで私はここにいるの。

誰が私をここに連れてきたの。

いつまでどこぞに落ち続ければいいの。

ここがどこなのか、なんて不安はもうお腹いっぱい。

やめてよ。
いい加減やめてよ。



熱のせいか思考がぐるぐる回る。
泣きたい。大声を上げて泣きたい。
堪えるのも辛くて唇を噛む。
歯が刺さって痛い。
泣きたい。子供みたいに喚きたい。
過ごした時間は20年を余裕で超える、永遠の19歳が笑える。
馬鹿じゃないかと呆れたって、この溢れてくる感情はどうしようもない。



別れることが当然なら親しい味方なんて作りたくない。
でも、味方をつけないと私はそれで終わってしまう。

親しくなれば情愛だって湧く。
一緒に生きたい人だって出会える。

それを全て捨てろというんだ。

辛い。辛いよ。
何でこんなにしんどい思いをしなくちゃなんないの。



ぐるぐるめぐる思考。
でもこの苦悩は、昔に通った道だ。
熱で弱っている精神状態が迷走している。


・・・ふっ ふふふふふっ


起きている状態なら膝を叩くぐらいの含み笑い。
笑ってやろうじゃないか畜生。
・・・いいわよ。受けて立ってやる。

諦めたら終わりってこと、で、やりゃーいいんでしょう辛抱強く!

私だって人間だ。落ち込みもすれば悩みだってする。
でたらめな人生でも、私は人間だ。

畜生、馬鹿野郎。ファッキン神様。
何で悩むことすら悩まなきゃならないの!


「目が覚めたみてーだな。」


布団の中で苛立つ手をわきわき動かしていた私に突然投げられた声は、ずいぶんと高い音域のものだった。
いつの間にか閉じていた瞼を開くと先ほどと変わらない部屋が見えた。
ただ、視線をめぐらせても声の主は見つけられない。
カーテンをしっかり引いているからなのか、この部屋の暗さは。
確認するような声に敵意は見当たらなかったので、私はとりあえず口を開く。

「・・・はじめまし・・・て・・・・・・?」

違和感。・・・声が、おかしかった。
風邪が喉にきているのか。
んんっ と空咳して続ける。

「ここはどこですか?」


うえっ やっぱり声がおかしい。


「ここはジャポーネだ。」

返ってきた言葉に私は眉をひそめた。

「じゃぽーね・・・日本?」
「そうだ。」

貰えた肯定にぞわりと、期待が沸き起こった。
衝動に任せて上半身を跳ね上げ私は辺りを見回す。
暗い室内、ぱらぱらと散らばる生活雑貨の数々、私が寝ていたベット、この部屋の人間が若い人なのだとわかる。
けど、今はそれを深く考えられない。

「でん、わ。 電話を、貸してください。」

どこにいるのかわからない人へ、必死に声をつむぐ。
それではっきりするなら私は十分救われる。
救われたなら神様たちへの数々の暴言だって撤回する。

「今は午前の3時だ。朝になるまで待ちやがれ。
 それと、おめーの熱が下がってからだな。」
「朝・・・熱・・・」


そんなの、瑣末だ。


背を起こしたまま要点を復唱、そして脳内でとるに足らぬと切り捨て、行動を開始しようとした私の前に小さな影が飛び乗ってくる。

「ダメだ。寝てろ。」

声の発生源はこの小さな影だった。
私の膝上にほどほどの体重で乗っているこの・・・小柄、ちょっと小柄すぎる人様。

え、ちょっと待って。

思わず慣れても見づらい目をしばたく。
非常識を何度も経験しているとはいえ、だからといって驚かないわけじゃないし。

「あか、ちゃん・・・?」
「ちゃおっす。人を指差すのは感心しねぇな。」

わーおっ 肯定が返ってきた!!
え、 これ、ここの常識?

そんな認識が生まれると共に、久しぶりに生まれた期待がしなしなと萎んでいく。
ついでに起こしていた体を元の位置へと倒す。
ばふっと汗臭かった。泣ける。誰の体臭だ。
ベットの主だとはわかっているけど。
いや、この汗は私がかいたものなんだから、これは私の匂い。

あぁぁぁぁぁぁぁっ なんなのここは。
なんなのっ なんだよ、持ち上げといて、落とすのか。

熱っぽく汗をかいている自分の両手で顔を覆う。

「何だお前、泣いてんのか。」
「泣いてません。嘆いているだけです。」

私の腿の上に乗ったままの子供の言葉に一応反論を返す。
泣きそうなのは事実だけど。
頭がぐらぐらする。悲しいし、熱か。熱なのか。
ああー泣きたい。泣くもんかちくしょう。

「随分、難しい性格をしてやがるな。」

僅かに笑うような声音。
変だろうが難しかろうが私は私だ。
っていうか、気違い染みた天才も、人外越えの野生人も、私を変人扱いしすぎだ。あんたらのほうがよっぽどおかしい人間だろう。私は普通―ごめん、いや常人じゃないけど私は凡人だ。
なのになんでこんなに、こんな目に!!

「そんなことに体力を使ってないで今は寝とけ。」

振ってきたのは声と、私の手に触れる小さな掌の感触。
この子は本当に子供なんだ。
私の事情も知らずに、それを許容できるだけの意思を持って。
なんて懐の大きい人間だ。

そこまで勝手に考えたところで、全身の重さに改めて意識が引っ張られる。
抵抗する意思を放棄して私は掌の下の瞼から力を抜いた。
寝よう。これから起こる全ての事象に対処する為に、体力を回復させよう。



世界はまだまだ不思議で満ちているなぁ。












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2009/04/18

 ちょっと面白そうなので手をつけてみました。


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