◆白々しい愛を疑う
黒髪に黒い瞳。健康的ではないがいくらか日に焼けた肌。
表情を良く変えるけれど、感情を大きく表すのは表情というよりも目のほうだ。
口調は丁寧なのかそうじゃないのか、相手を見てかなり変えている。
彼女に言わせれば『道義を通している』ということらしいが、ただ単に気分だと思われる。
彼女に関してはわからないことのほうが多い。
この世界に生きる生物としての定義を無視しすぎている。
本人も良くわからないと明言していた通り、奇想天外な生物だ。
構成音素の有無も、20年以上も昔から変わらないその姿もおかしい。
それでも、まるで普通の人間のように腹を空かせて食事を摂るし、睡眠もする。
髪も伸びれば爪だってそうだ。
怪我をすれば血も出るし痛がりもする。
その血を流す心臓の動きも脈拍として感じることが出来る。
触れればその体が空気よりも高い温度を保っていることだってわかる。
喋る言葉の端々には意思と積み重ねた知識の片鱗ものぞかせた。
まるで、普通の人間のように。
「――― ジェイドさん?」
糖分の固まりよろしくなお菓子を頬張っていたが、おもむろにジェイドへとその顔を向けた。
その顔のすぐ目の前には彼の掌が。
わしっ
「むがっ ちょ、コラ!」
の視線で一瞬は止められたその手が、そのまま進んでの顔面を掴んだ。
そしてその顔にかけられる容赦ない握力。
「いだだだだだダ!! 何!? なんなの!!?」
手に持っていた菓子を投げ捨て自分の頭蓋骨を掴むその手に掴みかかるが、必死さとは裏腹にその手をはがすことは出来なかった。
本気の抵抗を受けながらも彼女の頭を掴んでいる張本人―ジェイドはニコニコと、いけしゃあしゃあと言葉を吐く。
「ああ、すみません。なんとなくです。」
「しゃっ 謝罪は心を込めて!! はなさんかー!!」
痛がりながらも強かに、足を思いっきり振って反撃しようとするの動きを察し、ワンテンポ早くジェイドはを解放する。
空ぶった感覚に、は憎々しげに舌を打つ。
あまりにも正直な反応にジェイドは思わず笑う。
「私のなけなしの小銭で買った甘味の敵をとってもいいんでしょうか?」
「いやーすみません。つい。」
「ついじゃないですよ!砕けるかと思ったわ!
何か聞きたいことでもあったんですかコンチキショウ!」
「つい、なんとなく、腹が立ちまして。」
「腹を立てる権利はこっちにあると思うな!」
肩で息をしながらそこまで叫び、はそこで大きく息を吐いて向き直る。
何度か見たことのある、現状を受け入れようとする彼女の姿勢だ。
「・・・本当にどうしたんですか? 怒らない―とは言い切れないけど、言ってみるだけ言ってみたらどうです。」
ブン ―ガンッ!
突如ジェイドの左手がの左頬にぶちあたった。
・・・いや、ぶち当てられた。
「・・・」
「・・・」
数秒の沈黙。
「・・・ジェイドさん酷い!」
言葉と一緒には大きく前へと踏み込み、握り締めた右手を目の前の彼の腹めがけて突き出すが、触れる直前にジェイドの手によってそれは阻まれる。
さすがのも、理解不能な彼の行動に脱力してみせた。
彼女の正当防衛なはずなのに!
「・・・・・・・・・何が、したいんですか本当に・・・」
「すみません、本音を言えば・・・」
「言えば?」
頬を赤く染めたが見上げるその瞳を見返して、ジェイドは笑顔を浮かべた。
「貴女が本当に生きているのか確かめたくなるんです。」
あなたが 本当に 人なのか
「人の顔を掴んでしかも殴ることでですか!? あんた馬鹿ですか!?」
「貴女が生きていることが不自然なので。」
「あんたの行動が不可解じゃボケ!!
生きてるかどうかなんて他の調べ方があるでしょうに!!」
ジェイドに掴まれていない左手で顔を覆い、心の底から嘆いてみせる。
まさかのDVだ。
「domestic」ではなく「party」だからPV? わっ 変なの!!
「ですから、すみませんと。」
「謝る気があるならおとなしく殴られなさいよ!」
「嫌です。痛いじゃないですか。」
「ぎぃいぃぃぃっ! 何様だぁ!!」
叫ぶままに掴まれている右手を振りほどこうとするけれど、変わらずびくともしない。
「ですから、すみませんと。
・・・ちなみに、他の調べ方とは?」
上辺だけの謝罪に不満そうにしながらも、は小首を傾げてその問いに答えた。
「・・・『ぎゅっ』 ってするとか?
あ、うそうそ。似合わないからヤメテ。」
「・・・・・・・・」
「ともかく、ほら手!」
捻ってジェイドの手首を掴み返し、は彼の手を自分の首元へと近づけた。
グローブをしていてはろくにわからないと思うけれど、意図ぐらいは伝わるだろう。
抵抗少なく寄せることが出来たジェイドの手の甲に頬を当てて、漆黒の瞳が長い腕の先にある赤い瞳を覗き込む。
「理屈に関係なく、私は生きてる。
不条理だろうがなんだろうが生きてる。」
ね? と相槌を求めるようには笑った。
それなりの勢いではつられた頬は赤く変色しているのに。
促されるまま指先に少し力を込めて押せば、グローブ越しに伝わる微かな鼓動。
血液を送る生命のポンプ。
生きている。
人の姿を保って、人として笑う。
彼女はどう思うだろうか。
甘く、思考を焦がす恋慕の感情を持つ自分を。
重く、真の人にどれだけ近いのかと、彼女の死を望む自分を。
これを知っても、こうやって笑うのだろうか。
「・・・すみません、『つい』です。
ほんとうに、スミマセン。」
「白々しいわ。」
ええ、まったくです。
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2008/12/24
血生臭い欲求。
天才であるから覚える探究心。
すこしダークな話を目指してみました。
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