◆振り回したり振り回されたり









!」

呼ばれた方向に視線を向けると、ルーク様がこっちに向かって走ってきていた。
何用かは知らないが何があるかわからないので、私はジャガイモを刻んでいたナイフを仕舞って彼がたどり着くのを待つ。
結構な距離を走っているのか、僅かに汗をかいているように見える。

「どうしたんです?」
「いいからちょっと来い!」

椅子に座っている私の腕を掴んで引き立たせると、彼は私を引きずるように走り出した。

「―ぅおっ なんですかちょっと、ルーク様?
 説明してくださいよ説明を!
 何、ガイさんとおっかけっこでもしているんですか?」
「そんなもんだよ! ほら早く来いって!」

・・・私もヒマじゃないんだが・・・このお子様には関係ないのだろう。
仕方なく私も彼と肩を並べるように走り出す。


ややして一つの扉を見つけると、彼は躊躇いもせずにそこに飛び込んだ。

「はぁっ はっ はっ・・・ここって、ガイさんとペールさんの・・・部屋じゃ・・・」
「はーっ はーっ はぁ・・・そうだよ。
 ここはガイたちの部屋だ。」

二人して床に座り込み、呼吸も荒くしたまま、それでも答えを返してくれた。
ガイさんとおっかけっこをしているのなら、そりゃ大層な意表を突いているだろうが・・・なんにしたって、なんなんだこの状況は。

「ルーク様、私も仕事があるんですが。」
「・・・そのルーク様っていうのヤメロ。」
「・・・ルーク君、なんで私を巻き込んだんです?」

若干嫌そうな顔をしたが、私はそれを訂正する気も無いので真正面から彼を見つめて返答を待った。

「ガイが悪いんだ。」
「ほー・・・そりゃまたなんで?」

長い髪をうざわしそうに片手で浮かしてルーク君は私を睨んだ。
きっと私ではなく、ガイさんを睨んだのだろうが。
ぷりぷりと怒りを露わに彼は怒鳴る。

「アイツがなぁ、俺の質問に答えようとしないのが悪い!」


というと・・・私が、巻き込まれた理由は。


「ふーん・・・質問、ねぇ。」

相槌を返しながら私は膝立ちになってルーク君の髪を正面から掴み、湿気ったそれをポケットから取り出した髪ゴムで簡単にくくってあげる。
これで首周りは快適だろう。

「ガイさんはなんて言っていたんです?」
「『お前にはまだ早い』とか言うんだぜ! ワケわかんねーっつーの!」



・・・おぉ!?

ちょ、ちょっと待て。
ちょっと待ってください。


え、『早い』???



生まれた嫌な予感が私の背中を走る。

ルーク君のきれいな瞳が私へと戻ってくる。
ただ、私はそれを否定したくてたまらない。


・・・ぇーと・・・


、お前でいいから教えろよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・な、にを?」

先を促がすことしかできないかわいそうな私!!

「赤ん坊ってどうやって作るんだ?」




  ひ   ひぎゃー!!



ガイさんのクソ馬鹿阿呆ーッ!
豆腐の角で頭打ってしんじまえーッ!!!

ここにはいない男へ全力で殺意の念を送る!
届け! 届いてもこの状況はどうにもならないけれど、届けクソ!!

「・・・・・・赤ん坊、ですか・・・そっか・・・・・・どうしていきなりそんな質問を?」
「あぁ? ・・・本に、書いてて・・・わかんなかったからだよ。
 お前は知らないのか?」
「あぁぁなるほど。そうなんですね。ハイ。
 大丈夫です、私は知っています。
 了解しました、承知です。ガッテンガッテン。」

頭を抱えたくなる衝動を、私は何とか耐えた。
この子は記憶喪失なんだ。
そうだ、歳相応に見てはいけない。見てはいけないんだ。


 バァン!


突如すぐ隣のドアが開かれる。
ルーク君と二人でそちらに視線を向ければ、そこには肩で息をするガイさんの姿が。

諸悪の根源め!!

「る、ルーク・・・お前、もしかして」

そんな彼は、私を凝視してその顔色を悪くさせる。
はっはっはっはっは

「ガイさん、あなたも交えて勉強会ですね。
 丁度いい、本当に丁度いいです。
 タイミングばっちり。 ささっ、ルーク君私がその質問に答えましょう。」
「本当か!?」
「っどわぁー!、ちょっと待て!!」

満面の笑みでルーク君に向き直った私を、ガイさんの声が止めようとする。
・・・女性恐怖症のせいで腕は伸ばせないのだろう。このヘタレめ。

「んだよ、ガイ! お前は黙ってろってーの!」
「そうですよ、黙ってろってフヌケ。」
「ぐっ! いやいやいやそうじゃなくてだな―ちょっと来い!」

本当は私だけを引きずりあげて問いかけたいのだろうが、残念彼は女性恐怖症だ。

「あんまり騒ぐと部屋から放り出しますよ、ガイさん。」
「ここは俺の部屋だろう!」

報復混じりにこのまま本当に彼を放り出してもいいのだが、私がこれから教えようとすることを勘違いされても困るので・・・しょうがない、ちゃんと説明をしよう。
溜息を大きくついて、私はすっくと立ち上がる。

!」
「ルーク君、これからちゃんとガイさんを説得するから。
 ちゃんと教えるからちょっと待っていてください。」
「・・・・・・本当だな?」
「はい。」

私のハッキリ言い放った答えに、しぶしぶ彼は納得してくれたようだ。
少しだけ不機嫌そうな顔をしてそっぽを向く。
私はそのままガイさんについて部屋の外へと出て、その扉を閉める。

「おいおい!君は何のつもりだ!?」
「―まず、私に何か言うことがありますよね?」

絶対零度の眼差しに、ガイさんは気まずげに視線を泳がせる。

「あー・・・す、すまなかった・・・まさか、ルークが部屋を飛び出すとは思わなくて・・・だな。」
「そのお陰で、この状況です。文句は言わせませんよ。
 アナタが捨てたお鉢が私のところに来たんです。
 説明を求められたからには、私はその義務を果たします。」
「そ、それは俺が悪かったと謝るから」

焦りの中に照れが混じって見えるのは、気のせいじゃないんだろう。
照れられたらこっちまで照れる。

「ルーク君はおいくつですか?」
「・・・15だ。」
「いいですか、いい加減開き直ってください。
 精神はどうであれ体的には十分二次性徴が現れる時期です。
 それでいて性に対する知識が無いって言うのは、悪いですが大問題です。」

臆面も無く聞いた質問に、彼は絶句した。
ええい、だから照れるなというに!

「私が、彼に、ちゃんとした情報を伝えるためには、彼の現状を知らなきゃならんでしょうが!ガイさんのその時期を聞いているんじゃないんだからいい加減照れるのは止めてください!
 なんにせよ、それはいずれ起こる事象です。
 生理現象です。 人間として当たり前のことです。
 怖いのは、彼がそういった予備知識を持たないままその生理衝動を暴走させることなの。わかりますか?それとも説明させなきゃ気がすみませんか?
 いい加減にしないと私もキレますよ?ちょっと?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ! 俺が悪かったから!!」

本当にわかっているのかこの男は・・・
詰め寄る私と同じ距離を引かせつつ謝る彼に、私は腕を組んで向き直った。
彼が危惧していることだろう。

「心配しなくても、いきなり男女のホニャラカを教えたりはしません。
 私だって嫌ですよ。いきなりそんな説明をするのは。」
「そ、そうか・・・」
「あからさまに安心するな。
 私からしてみれば、数々の家庭教師が教えていないことが不思議なんです。
 まったく・・・何を考えているんですか公爵様は・・・」

お世継ぎ云々の問題だあるだろうから若いうちに色々と吹き込んでいるものだと思っていたんだけど、残念ながらその想像は違ったらしい。

「いいですか。これは、ぽっと説明して理解できる内容じゃないです。
 だからちゃんと段階と順番、時間をかけて説明します。
 ルーク君の理解の深まり具合で延ばしもするし、縮めたりもします。」

時間はあるのだ。
そして彼が学ぼうとする姿勢は珍しいのだ。
私は、物事を知ろうとしない人間は嫌いだ。だから、今の彼の、興味を持つという行為は大変喜ばしい状況だと思う。
だから、それには答えてやりたい。

無知は罪かと問われれば、それは限りなく罪に近しいものであって、またそれは冤罪とも言える。
彼の、一国の王族という立場からすれば、それは十分な罪になりえるだろう。
私はそんな重責を知らない。
だけど想像することはできる。

「ルーク君はいずれ、高い地位と強い権力を持つ人間になる。
 だったら、無知は罪になる。
 そしてその結果は、あの子と一緒に過ごした私たちの罪だ。
 悪いけど、私はそんな状況御免被る。冗談じゃない。
 学ぶ姿勢と、学ぼうとする意識を損なわせないためにも、コレはいい機会だと私は思うの。」

つらつらと言い並べた私を前に、言葉を失っているガイさんへ向かって姿勢を正す。私よりも少し高いその目を見つめ、私は彼にもう一つだけ言い放つ。

「異論はありませんね?」


勿論、否とは言わせない。












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2008/12/16

 ガイさんをいじることが出来て大変満足です★
 ファブレ家で滞在することが決まった彼女の一日でございます。あははっ 受難〜
 
 十万打感謝の心をこめて!




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