◆ゲーム本編2
「ジェイドさん何のつもりですか!?
何のつもり!? 放して、く、だ、さい!!」
「・・・いい加減黙りなさい。」
「いだだだだッ! 傷に触るなっ ひきょうっ!ひきょーだ!!
陰険眼鏡!馬鹿!阿呆!!」
「それ以上騒ぐと魔界の海に投げ捨てますよ。」
冗談に聞こえなかったので、私は口を突いて出そうだった罵詈雑言を飲み込む。
ああ胸糞悪い。
食中りを起こしそうだ。
「あー・・・もう、本当に何のつもりですか・・・?」
諦め混じりに体から力を抜くと、廊下を歩くジェイドさんがすぐ脇にあった部屋へへと入っていく。
そこは地震でもあったかのように荒れている部屋だった。
そして突如、ぼーっと大人しくなっている私の体が持ち上げられる。
ぐるんっ
「ぉ―わぁ!」
投げ捨てられた私を受け止めてくれたのはベットだった。
っていうか、体の節々が痛い私になんてことをしてくれるんだこの人は。
憎しみを込めて睨んだら、赤い瞳とぶつかった。
あっれー えー・・・いや、あなたが私を睨む理由は何よ。
「・・・貴女と同じ理由ですよ。」
「―は?」
私は理不尽な扱いに対しての不満なんだけど・・・じゃあ何。
ジェイドさんはさっき殴られたことに不満があると。
「た、たかだか一発殴られたぐらいで、何を言ってるの。
間髪いれずに殴り返したんだからおあいこでしょう?」
思いっきり殴っただけあって赤く腫れている彼の頬だけど、私の顔だって負けてない。
普段打たれなれてないから尚更に。
それにしても、私を放置しておけばいいのにわざわざ邪魔をしに戻ってくるなんて、ジェイドさんらしくないですねぇ。
はっはっは。そんなにそのお綺麗な顔をぶたれたのが気になるのか。
思春期の子供じゃあるまいし!
「ともかく、あの状態のルークを放っておくつもりはないから、
邪魔しないでくだ ― げふっ」
言いながら起こそうとした私の上半身が、ジェイドさんからの腕の一突きでまた元の位置へと戻された。
ギシッ
肘を着いてシーツに体を埋めることを阻止した私に、ベットが短く軋む音と一緒に暗い影がかかる。
ふわりと香った匂いに、思わず視線が明後日の方向に飛んでった。
これは現実逃避です。ハイ。
視界の端にさらりとした髪が流れていって、私は思わず悲鳴を上げる。
「ぅ うわわわわわわっ ひいぃ!」
悲鳴ついでに逃げようとした体は、乗り出してきた彼の足に私の足が押さえつけられてそれ以上引けなくなる。
お綺麗な顔と体が近づいてきて私は心底泣きたくなった。
何だこれは、なんなんだ!!
行動の意図がわからない!
なんだっ この人をこんな行動に走らせるほど私は彼を怒らせたのか!?
顔を殴ったことがそんなに!?
なんて狭量な男だ!!
「『ひぃ』とはなんですか、失礼な。」
私の反応がおかしいというように、彼は眉を顰めてみせる。
「いやいやいや!動揺するなって言うのかアナタは!?
何ですっ そんなに私の邪魔をしたいのか!?」
「・・・そうですね。そうなるんでしょう。」
い、言い切ったー!!
目の前にある顔が浮かべた表情は、随分と冷ややかな色だった。
これはすくならずとも傷つく反応だ。
ああ、私は彼との関係は改善できてきたと思っていたのに・・・彼も私も好まないこんな方法を取ってまで私の行動を阻止するなんて、なんだ、結局私は嫌われているのか。
だいぶ・・・ショックだ。
正直泣きたい。
泣いている場合じゃないから泣かないけど。
力じゃ敵わないし、だからと言って今この状態でジェイドさんを説き伏せられるとも思えない。
結局私は、彼の言う通りに従う姿勢をみせるほか無いのだ。
下手に抵抗して、この状態から発展させられても困る。
そんなことになったら泣くどころじゃない。
嘆く。喚く。
死に物狂いで逃げる。
「・・・あーあーあ、わかりました。
目障りにならないように大人しくしてます。
ジェイドさんの視界に入らないようにします。
私は空気、空気になります。 窒素化合物になりきってやる。」
上半身を支えていた肘を加重から開放して仰向けに倒れ、私はジェイドさんとの距離を広げる。
あんまり整った顔が近くにあるのは心臓に良くないのだ。
ついでに顔を正面から逸らして精神の安定を図る。
自分を嫌っている人間の顔を眺め続ける趣味は無い。
ジェイドさんの軍服の襟と伸びた自分の髪を眺めて、私は抵抗の意志を放棄したことを彼に伝える。察しのいい彼なら十分わかるだろう。
そう、思っていた。
その時、手袋をつけた掌が私の顎に触れたのがわかった。
慣れない感覚に目を瞬いていると、背けていた顔の向きが正面へと正される。
視界を埋める整った顔に私の喉が引き攣った。
「ひ―ひぎっ」
ちちちちち ちかぁい!!!!
心の底からの絶叫は、予測していない事態に動揺した声帯が痙攣しているせいでこの口から飛び出しては行かなかった。
飛び出してくれればよかったのに!
「ちょ ぁ ぼ ――む んぐーッ!!」
ちなみに、私は『ちょっとアンタ!ボケッ!』と叫ぼうとしたんだが。
失語になったどころか、先は封じ込められて続けられなっ う うあぁぁぁっ!!
くっ 唇を噛ん――
うぁ゛ 舌っ ひぃぃっ!!
やばい ヤバイヤバイ!流される!!
抵抗する案件が頭の中に次々に浮かぶけれど後々が怖くて実行できない!
ドコからか生まれた感覚が背骨に沿って全身に痺れのような感覚を覚えさせる。
うっ あー 無駄に上手いね!
普通の女の子なら骨抜きだね!
まぁ、かくいう私も腰が抜けているわけだけどっ!
「んっ ぐんんんんんん〜!!」
流されるものかと、ようやく私は彼の背を叩いて抗議をした。
悪いが、これぐらいの抵抗を責められでもしようものなら、私は全力でこの人間の前から逃げなければならない。
嫌がらせで犯されてたまるか!!
「ぅ――ぷはっ はーっ はーっ はーっ」
腹立たしくて思いっきり肩甲骨付近に爪を立てたら、そこでようやく開放された。
空気! 酸素!
っていうか、口の周りが濡れてて気持ち悪い!
嫌悪を100%表情に浮かべてどちらともわからない唾液を腕で拭おうとすると、 ぱしん―ぼすっ と一連の音が続いて私の両手がベットへと縫いつけられた。
・・・うん。
いい加減にして欲しいかな♪
「苛々の気晴らしにこういうことするのって最低ですよ。
最上級の軽蔑対象になりたいんですか、貴方は。」
「それは御免被りたいですね。」
そう答えたくせに私にかかる体重は変わりが無い。
「ほほほほほっ その減らず口を叩くお口を思いっきり噛み切っていたほうが良かったかしらぁ?いい加減にしてください。いい加減に、して、く、だ、さい!」
「おや、そんな余裕があったんですか?
そうだと知っていたら手加減は必要なかったですね。」
あぁぁぁ もう、こんな嫌がらせを受けるぐらいならグーで殴られたほうがマシだ。
理由無く謝るのは嫌いだが、この際いくらでも(心無く)謝るから放して欲しい。
何度目かの脱力感。
脱力ついでに、首を傾けて肩口の誰かさんの軍服で口の周りを拭う。
何だ。ここに来てからというもの、ジェイドさんが随分とおかしくないか。
他人を嫌ったこの人がその嫌悪を露わにして、しかも感情をその対象人物にぶつけるっていうところがおかしい。
私が覚える限り、この人は嫌悪した人間に対しては『無関心』になるはずだ。
つまり、ルークに対する反応は異例なんだろう。
・・・多分私に対しても。
ならその『異例』が起きる条件はなんだ?
「・・・ジェーイド。」
「・・・なんですか。」
呼びかけに応じてくる。
この人間が何を考えているのかはわからないが、きっとジェイドさん自身だって理解できる範疇を超えている事だってあるだろう。
私が覚えている、彼らしくない一面。
それを思い出してしまった。
一つは、優しかった先生を失ったあの時。
もう一つは、最近ある人物に対しての彼の態度だ。
前者では、先生が死んだことを無かったことにしようとした。
じゃあ
じゃあ今は?
今はどうなんだ?
「?」
「・・・アナタはルークと何か関係があるんですね?」
彼の問いかけに、私は問いかけを返した。
それと同時に、私の手首を握る彼の手に更なる力が篭る。
「・・・どういう意味ですか。」
「自分と関係がある物に対してしか激昂しないじゃないですか。
あれは『ルーク』を見て覚えた感情なの?
それとも、『ルーク』を通した先を見て、怒鳴ったの?」
「・・・・・・・・・」
「何を、そんなに毛嫌いしているんです?」
私のその問いを最後にこの部屋には静寂が満ちた。
いい年こいた男女二人がほぼ密着状態だという現状に興奮も高揚も無い。
そんなものを抱くつもりは無いが、最悪の状態に陥らずにすみそうな現状に安堵しているのも事実なんです。
ハイ。 よかったね私。
私は大きな溜息を吐いて、それまで静かに眺めていた彼の瞳から目を逸らした。
そして間を置いて、掴まれていた右手首をそっと動かして解放してもらう。
すぐ傍にある答えに悩む困惑の気配をひしひしと覚えながら、私は眼の前にあった頭を抱き寄せてやる。
抵抗する様子は無かったので、そのままぽんぽんと頭を撫でる。
なんて触り心地の良い髪の毛なんだと場違いなことを考えつつ、体に染み付いていた泥とはまったく違う匂いに目を細め、
私の顔のすぐ隣にある金髪頭に自分の側頭部を押し付けた。
ややして、少しだけ浮いていた体から力が抜けて、私に体重がのしかかってくる。
・・・まぁ、私に乗る分を調整しているようなので文句は言わないでやろう。
「・・・別に、答えてくれなくても構わないですけどね。」
そう言って私は彼の背中を思いっきり叩いた。
ぴったりと重なっている私にまで響いた振動に、大人しくなっていた気配が反応を返す。
思考に沈んだ意識を浮上させるには十分だろう。
「かわいそうな自分の体を労わってやるために私は寝ます。
なのでとっととどいてください。」
「嫌です。」
「『イヤ』じゃねぇ、とっととどけ。」
ふざけたことをキッパリとぬかす頭に、こちらから頭を倒して勢い良くぶつけてやった。
性質の悪い冗談に付き合ってやるつもりは無い。
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2008/01/29
ものっそいジェイドさんからの一方通行になりました(笑)
ジェイドさんが彼女を連れ去った理由、おわかりいただけますかね?
これの前の話で彼女が一同に怒鳴りつけた理由と同じ…だと暗に言っていたんですが、ものの見事に伝わっていません。
彼女、自分がジェイドさんに好かれているなんて思っていませんからねー…イヒ
うっかり方向を間違えたら裏側になりかねないとは思いますが、上手く転がさないでできたのでひと安心です。
よかったよかった。
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