助け舟は……ジェイド!







   あくまでも淡白に それでいてしつこくて







「手伝って差し上げましょう。」

どこからか放たれた声にはぎくりと体を強張らせる。
聞こえたその声は弾むようなものだったが、その声音から感じ取った感情の色に、は思わず自分に掴みかかってきていた男を逆に思いっきり突き飛ばして見せた。
が彼の立ち位置を占拠するような状態になると、舌打ちと同時に声の主が何かを止めた。

有能な譜術士なら、そこで組み上げられようとしていた音素の塊が霧散していく様子が見えただろうが、そのような状況を理解しているのはその音素を集めていたただ一人の男だった。
彼女を拘束していた男は、哀れ彼女の手によって尻餅をつかされていた。

当然、を掴んでいた手を離して。

「おや、どうしたんですか?」
「・・・一応感謝はします。アリガトウ。」

嫌な予感は杞憂だったのかと、内心で溜息を漏らしつつ彼女は声の主のいる自分の背後へと振り返る。そして少し離れたところに立っている金髪の軍人を見つけ、飄々と立つその人を軽く睨んだ。
の視線の先を辿った男は、あからさまにその顔色を変える。

「あ、アンタ―いや、貴方は・・・!」

驚愕に言葉を詰まらせる地面に尻餅をついたままの男をチラリと一瞥し、ジェイドはすぐにへと視線を戻した。

「自由行動とは言いましたが、まさか痴情の縺れを繰り広げるとは思いませんでしたよ。」
「まーこれもみんな私が魅力的なせいですかね。
 ちゃんも玉の輿を狙ってみようかしら〜♪」
「おや、でしたらカーティス家はいかがです?
 家主が頑張ったおかげで冨・名声・権力、どれも思いのままですよ。」
「自分が支配できない家なんていりません。」
「腹黒いですねー」
「日にあたってないからお腹は真っ白ですよ〜」

さん! 貴女はその人が誰なのか知っているんですか!?」

繰り広げられる軽口の応酬に男が叫ぶ。
男に向き直ったは小首を傾げつつはっきりと答えた。

「私とはちょっとした腐れ縁のドSツンデレ眼鏡さんです。
 またの名をジェイド・カーティス。」
「・・・・・・」

物言いたげな視線を無視し、は男に掴まれたせいで乱れていた服を片手で払って整える。
マルクト軍大佐だろうが大三師団師団長だろうが、彼女にしてみればこまっしゃくれたおガキ様がそのまま大人になった気分なのだ。
しかも殺されかけた相手で、彼のことを話す相手も人の話を聞かない迷惑な男だ。
なので鬱憤を晴らす意味も込めて露骨に皮肉ってみせる。

だが、そんな口ぶりに大げさな反応を返したのは迷惑な男本人だ。

「なっ なんて口を!!」
「敬意を払うべき場面では徹底します。
 それとも、私の友人に対する態度に何かご不満が?」
「そんな不遜な態度をとって―君は馬鹿か!?
 相手は死霊使いだぞ!? 何を考えて ―」


ネクロマンサー・・・そういえば、敵味方に恐れられていたとか何とかいう話を思い出した。


それを聞いた瞬間、は満面の笑顔を浮かべてみせる。
花が咲いたような―とはとても言えない、笑顔だ。


「結婚します?」
「えっ」


男の表情に、驚きと喜色の二つが浮かぶ。
あくまでも優しい声音で紡がれる言葉の続きに、その二色が吹っ飛ぶ。


「ちなみに私は、ジェイドさんとの付き合いを絶つ気はありません。
 それでもよければ試しに一月ほど?」


男の口の端がマトモに引き攣った!


「では私は新婚ほやほやのお宅を冷やかしに、3日おきぐらいに訪ねるとしましょうか。」


男の顔面から血の気が引いた!


畳み掛けるように言ったジェイドの言葉を聞いた男の反応を見届け、は笑顔のまま男へと歩みよっていく。
彼女の意図が読めずにじりじりと後ずさるその体に追いつきその目の前に立つと、彼女は歩きざまにしかと握り締めていた右手を、大きく踏み込みながら振るった。



  ガゴッ!



男の左頬に直撃した拳は素人目に見てもクリーンヒット。
の後ろでそれを眺めていたジェイドも、思わず感心するような一撃だった。

「目は覚めたかしら?」
「ぐがっ ― ッ さん!!」




「だかましい。二度と話しかけるな。









・・・・・・・・・・・・









「はーっ・・・すみません、手を煩わせました。」

すごすごと立ち去った男に見向きもせず、私は改めてジェイドへと詫びる。

「まったくです。
 言い寄ってきた男の一人や二人、捌けなくてどうしますか。」
「いや、あそこまでしつこいのは初めてですし。
 そもそも私の何が彼の琴線に引っかかったのかもよくわからないのに。」

一応反論を返していると、ジェイドはここに留まっても目立つだけだからと宿へ戻ることを提案した。
無論願ったり叶ったりなことなどで私はすぐにその後を追う。

「どこで知り合ったんです?」
「バイト先でですね、そこまで親密になったつもりはなかったんですが。
 人生何が起きるかわからないものだ・・・想定外です。
 ・・・ってジェイドさん? どこに行くんです?」

せっかく横に並んだジェイドが小脇の道へと進む姿に思わず問いかける。
とりあえず追いかけている私をちらりとみやり、ジェイドは肩を竦めた。

「せっかくですから買い物に付き合いなさい。
 アナタのおかげで余計な時間を潰しました。」
「ドコまでもお供いたしませう。」
「それは嬉しい言葉を。」
「助かったことも、手間をかけさせたことも事実ですから―ジェイドさん。」

詫びるような口調が一変するが、ジェイドは素知らぬ顔ですたすたと進んでいく。
いや、買い物はともかくそんな道を選択する理由は何だ。
いくらこの街に詳しくない私でも、それが正規の道じゃないことぐらいわかる。

「なんです?」
「待ちなさい。待て。人の話を聞け。どこに行こうとしているの?」
「人目の少ないところへ。」

えー なにそれー

「いやいやいやいや、ちょっと、さっき言っていた買い物は?」
「勿論行きますよ。
 けれど、貴女がほとんど見ず知らずに近い男になびく事は無いとわかってはいても、正直な話、目の前で口説かれようとしている光景を眺めていて面白いものではなかった。
 私は思っていたよりも大人ではなかったようです。」

ワンブレスで言い放たれた言葉に私は目を点にした。

ほ・・・ほう。それが自己分析の結果ですか。

立ち止まってすぐに私へと振り返ってくるジェイドさんを見上げ、私は首を傾げたくなる感情を堪えて視線だけで先を促がした。
ってか、何でこの人、笑ってんの。ねぇ。

「私は、貴女がここで生きる理由と目的を知っているつもりです。
 その邪魔をするつもりもないし足枷になる気も無い。
 それを貫くぐらいどうとでもないと思っていた。」
「・・・・・・ところがどっこい?」


嫌われてはないのだとちょっと安心するが。


「ええ、それを全て撤回したくなる程度には腹が立ちました。」
「・・・ほほぅ。その心は?」
「自分のものにならないことに納得することと、
 他人のものになることを納得するのは別問題だったようです。」



えっ ちょ


性質の悪い冗談はいらないんだけど?



「つまり、私が誰か特別な人を作るとは思えないけれど、
 そういった選択を私の前に並べられることは気に食わないと?」
「はい。」



お父さんですか!? あんたは!?



「―理性を総動員します。脳内のコメントは却下。
 まがりなりにも年上の、ご高名な方にそんな口はきけません。」
「何を思い浮かべたのか想像に難くありませんが。
 それはともかく、。」
「はいー?」

なんですかおとーさん。

心の中で問いかけの続きを呟いていると、ジェイドさんが一歩、こちらへと踏み込んでくる。
っていうかこの人、ただでさえ背が高いのだから微妙な高さを持つブーツなんてやめればいいのに。いや、もしかすると仕込み刃でも隠しているのかもしれない。踵に。
踵落としと同時に炸裂する刃。
なんて恐ろしい。

そんな事を考えている内にまた一歩。一歩。加えて一歩。
物凄く自然な動作だが、私は彼がこんな風に、無作為に人との距離を詰めるなんて知らない。

私は正直あのメンバーでは影の年長者を気取っていたのだけど、それは思い上がりだったとでも言いたいのだろうか。
それともこの人が父性にでも目覚めたとか。

私に対して・・・?
ありえなーい。

「・・・ジェイドさん?」

至近距離にいるその人の顔を見上げて首を傾げると、眉をしかめがちな私と違い彼は綺麗な笑顔を浮かべていた。
でも、なんか怒っている。
いや、先程彼自身が言った通り腹を立てている?


・・・えーと。


私が今ここで生きる目的を知っていると言っていた。
だから私が、この世界で所帯を持つことなんて無いと、理解している。
それを踏まえたうえで、私に対して一歩引いてくれていた?
・・・私は嫌われているんじゃなかったのか・・・?
それが間違っているっていうのなら、かなり嬉しいんだけど。
んでもって、そんな私の前に言い寄る(ぶはっ!)奴を見て、腹を立てた?

・・・ん?  ええ?
自分のもの? 他人のもの?

頭の中で聞いたジェイドさんの言葉を整理しようとするが、あまりにも予想外すぎて処理能力が追いつかないぞ。想定外だ。


「じぇっ―うわっ」

こちらへと伸ばされた腕に私はあっさりと捕まった。
優しく抱きしめられて、吸う空気全てがジェイドさんの香水の香りに染まる。


いやいやいやいや!


「ちょっ ちょっと、ジェイドさん! く、くるしっ 放して!!」
「せっかく助けたんです。ご褒美ぐらいいいでしょう。」
「ハグだけならともかくっ こ、腰を撫でるな ァ やっ
 〜!・・・手つきがエロ臭いぞおっさん!!」
「こういうことでしか、自分が人間だと認識できないんです。」

嘘付け! そういうことをうざわしいとおもっているくせに!

「それとコレとは関係ない!!」
「・・・チッ」
「舌を打つな!」

ムードの欠片もない言葉の数々に気でも逸れてくれたのか、その舌打ちと同時に私は解放される。

ああ恐ろしい。
一体何を考えてああいう行動をとったんだ。
私はじりじりと後ろに下がりながら安堵の息を吐いた。

。」
「なんですか。」

もう一歩、下がったところで背中が冷たい石壁にぶつかった。
おっと危ない。
この街は水路が多いので足元は大丈夫かと見下ろす。



 ドッ  ガンッ

「ぐがっ」


肩の衝撃と同時に壁から浮いていた背中がその勢いのまま壁にぶつかる。
頭を打たなかったことだけが救いだ。
痛いけどね!

「ジェイ―」


 どんっ


食って掛かろうととした私の顔の両脇にジェイドさんの両手が叩きつけられ、私は当然の抗議の声を飲み込む羽目になる。
一緒に飲み込んだ空気で喉が微妙に痛かった。
背中も痛いし喉も痛いしで私には当然文句を言う権利はあったけれど、私を見下ろす瞳がそれを許さない雰囲気を醸し出している。
他人からの激情くらいなら何食わぬ顔で受け流すのが自分のスタイルだけど、さすがにコレほど威圧的だと察するぐらいできる。
受け流したら悪化しそうな状況だと。


あっ 今こいつが何考えてるかわかるぞ!

ふふっ ものっすげぇ怒ってる!


「あんな小蝿ぐらい自分で払い捨てなさい。」


ハッキリと、至近距離での命令形。


「・・・しょ・・・・・・・・・精進します・・・」


そう答えるしかない私は悪くない。






わ、私は被害者なのにー!!











*** ジェイドSide END ***







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2008/04/15

 アンケートお礼SSー ・・・今いつだって話。
 一応ジェイドさんにアプローチをかけさせてみました。
 夢・・・と言い切るには甘味が足りない気もしますが、嫉妬と独占欲は怖いねーってお話。



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