また求職中







   礼 義 忠 …を気休め程度に







視界の中に覚えた鮮やかな色に、私は思わず足を止める。
お店の前でその店の人と会話している横顔を見て私はそのまま声を吐き出した。



「おにーさん。」



うっかり間延びした言い方になってしまったが、十分聞こえたようだ。
その人は長い髪を揺らし、勢い良く私のほうへとその首を向けた。
私は見開かれた目を見つめて思わず走り出す。

「お久しぶり!」
「お前―生きていたのか!」

再会の挨拶は、何故か私の生存に対する驚きの声に掻き消された。


意外と地味にショック!


脳内に響く鐘のような重い音を錯覚しながら、私は笑顔を引き攣らせる。

「い、生きてますよ!殺さないでください!
 それより何より、覚えてくれててありがとうございます。
 ってゆーか凄い偶然ですね。お元気でした?」
「・・・見ての通りだ。」

主張と質問を連ねた私の言葉に赤い髪のお兄さん(年下だが)は一言だけ返した。
私は不躾ながらその体を上から下まで眺め、旅慣れした風体に改めて笑顔を浮かべる。

「みたいですね。」

うん元気そうだ。

それにしてもこのヒト、本当にルークそっくりだ。
ルークには兄弟もいないらしいから・・・他人のそっくりさんか。
物凄い遭遇率だな私。

「そっちは随分と様子が変わったな。」
「ええ、まぁ、はい。色々想定外な事ばっかりにたて続けて巻き込まれましたね。
 おかげで逞しくなりましたよ。もう世間知らずとは言わせません。」

はっはっはと胸を張りながらもう一歩近づく。
そこでふと感じた違和感に私は胸を張った状態でしばし停止した。


・・・あれ、なんか記憶とちょっと違う。


「? なんだ。」

訝しげに眉間にしわを寄せるその人を見上げて、私はようやく思い至る。

「あ、あぁ。 なるほど!
 お兄さん背、伸びましたね!」

手を打ち鳴らして、違和感の正体を叫んだ。

私の身長は162とちょっと。
少し見上げる動作は、初めて彼と歩いた時には覚えなかった感覚だ。

16歳といえば、そうか成長期なのか。
うーん、何年も前に過ぎ去ったその感覚は物凄く懐かしいぞ。
高校に通っている時、学友達がぐんぐんその体格を変えていく様を見て笑っていたものだ。うん、懐かしい。

「いいですねー、色男が増しますよ!」
「茶化すな!」

続いて発した言葉にお兄さんは烈火のごとく叫び返す。
私も負けじと叫ぶ。

「違う!褒めてるのよ!」
「― ッ 〜 !!」

この反論は予想外だったのか、お兄さんは二の句も継げずにはくっと数回口を動かした。
僅かに色づいた頬を見つめ私は小さくほくそ笑む。


ふっ 勝った。


嘘を吐いている訳ではないので、コチラの気持ちも清々しいものだ。

「私が嘘を言う時はちゃんと分かるように言いますから安心してください。」
「・・・それで何を安心しろと言うんだ?」


正しい突っ込みはスルーします。


「それは言葉のノリと言う奴です。
 もし都合がよければ一緒に話でもいかが?
 改めて御礼もしたいですし。」
「礼などいらん。」
「一刀両断しないでくださいよ。
 命の恩人を前にして私も引き下がるわけにはいきません。」

間髪いれずに放たれた言葉にコチラも間を置かずに叩きつける。
難しそうに口を閉ざしたお兄さんを見て、私は笑みを深めて続ける。
からかうのも程ほどにしよう。

「だって、最初に貴方に会わなかったら今頃野垂れ死に決定だったし。
 ・・・あんなバタバタしたお別れじゃちょっと格好がつかないんですよ。私のためにと思って。」

いかが? と首を傾げて見せる私を睨み、お兄さんは大きく溜息を吐く。

「・・・そんな暇はない。」
「そうですか・・・それは残念。
 今日はどちらまで?よければ道すがらだけでも話しましょ?」
「お前は何をしにここに来ているんだ?」

おや、私に興味を持ってくれているのか。
珍しい切り返しに微笑みをプラスして私は答える。

「私は今求職中かな。
 この間までバチカルに住んでたんだけどそこを追い出されちゃってね。
 キムラスカだと色々怖いから、マルクトのどこかに行こうかなって算段中。
 あ、追い出されたっていうのはやむをえない理由からですからね。
 私が悪いことをしたわけじゃないのであしからず。」

とりあえず誤解されないよう釘を刺すが、事情の説明はできないので結局は怪しまれるだけだとは思う。
それでも言う、言わないでこちらの気持ちが違う。

「ダアトもなー・・・行ってみたかったんだけど、性質の悪いヒゲがいるから気が乗らないんだよね・・・」

消去法でマルクトだ。
しょうがない。しょうがないんだ。
もしあのヒゲとあんな島で会ったりしたら、本当に逃げ場が無い。



絶対に嫌だ。



「・・・・・・・・・髭?」
「気にしないでください。むしろスルーの方向でお願いします。」

顰められた眉に、これ以上の追求を拒否する。
噂はするものではないんです。
影が生えるから。

「お兄さんはどこへ?」
「俺はベルケンドだ。」
「ほげっ ・・・じゃあキムラスカ側からの出立ですね。」

それじゃあ道が正反対だ。
うーん・・・ことごとく運がないな。

私は諦めて足を止める。
確か船の時間までそんなになかったのだ。
このままお兄さんに付き合うわけにも行かない。
(なぜなら満足なお金もないからだ!)

「これ以上足を止めるのは申し訳ないですね。
 改めて、お兄さん。」
「なんだ。」

姿勢を正した私にいくらか訝しげな視線を投げるお兄さんを見つめ、私は笑顔を浮かべる。

「あの時は本当にありがとうございました。」

言って深く頭を下げる。

「・・・また、会えるかどうかはわかりませんが。
 お兄さんも体を大事に、お元気でいてください。」
「・・・・・・」

不意を突かれたというお兄さんの顔を見上げながら、私は笑う。
好意ある別れの時こそ、人は笑顔でいるべきなんだという母の教えがとても懐かしい。




これが、私と、ルークそっくりのお兄さんとの二度目の邂逅だった。


まだ、この世界は穏やかだった。













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2007/08/30

 主人公さんアッシュと再び出会う話です。
 彼女は既にルークとガイと知り合っています。そしてまた求職中(笑)
 そしてなにやらヴァンとも確執が生まれている様子です。
 そのあたりは・・・長編を書き進めます!!



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