箒代わりとうそぶいて





ふと携帯の画面を覘くと、私の日常とは関係なく時を刻む数字が二つの『7』を表示していた。
ああ今日は七夕なんだと、半分眠っている頭で考えた。









   箒代わりとうそぶいて









風情を愛する人間ではないけれど思い立ったが吉日生活と言う。
なので私は一人、笹っぽい植物を一枝持ってその中の邪魔な枝を切り払っていた。
枯れた葉っぱを取り払い、節についている・・・なんていうんだろこの葉は?・・・ソレも外す。
うん、緑がとても鮮やかで綺麗だ。

笹の準備ができたので、買ってきた色とりどりの紙を正方形に切って折り紙ができるように整える。ついでに長細い物と三角の形も作っておく。
小さな笹なのでそんなにたくさんは必要ないだろう。
必要量を切り出したら残りは短冊にする。
そして白い紙を取り出し、今度はそれを捩ってこよりを作る。

単調な作業だけど楽しい。
懐かしい作業に少しだけ気分が弾む感覚に私は上機嫌になってこよりを作っていく。
やっぱり糸じゃなくて、こより。
七夕らしくていいじゃない。ふははっ

「ニヤニヤと何をしているんですか?」
「ぅうっひゃぁぁ!!」

首のすぐ後ろからの声に私は絶叫する!
鳥肌!鳥肌が立ったぞ今!?
こよりの山に片手を突っ込ませながら振り返ると、そこには胡散臭い微笑みを浮かべたカーティス氏が立っていた。

「ジェイドさん!先に、話しかけてください!
 なんで気配と足音を絶って背後に立つ!?」
「いえ、あなたがコソコソと奇妙な行動をとっていたので。
 見てみれば怪しげな笑みを浮かべて刃物を手にしていましたので用心に越したことはないと。」

あ、怪しげな笑みとは失礼な!

「果物ナイフとはさみに警戒する軍人がいるか!!
 正直に言え正直に!根性曲がり!!」

そこまで怒鳴っていささか気も晴れたので、私は目の前に広げている七夕飾りへと視線を戻した。

あぁぁぁぁ こよりが散ってる・・・

驚いた勢いで散らばってしまっているこよりをちまちまと拾い集めつつ、小さく溜息をつく。
理由は、私の背後で地面に座る私を見下ろしているこの男のせいだ。
視線って背中で感じ取れるんだね☆
おもしろくなーい

「・・・大佐ー・・・こんな町外れで何をしているんです?
 変なごまかしや冗談を言ったら、もれなくここにあるこよりをアナタ様の顔にある穴という穴に刺し込ませていただきます。」
「・・・・・・何故アナタはそういうことを言いますか・・・・・・」

いささかテンションの低い言葉に私は返答のしようが無い。
私は私なのだから、望むものはないでしょうに。
とりあえず思いついた答えを。

「驚いた報復にささやかな精神攻撃を。」
「強かですねぇ。」
「ジェイドさんには負けますよー。」
「この人格形成にはいささかが関わっていないとも言い切れないと思うのですが。
 まぁ、それはともかく、アナタは何をしているんですか?」

おっと話題が切り返された。

覗き込んで私の前に並べられているものを眺めるジェイドさんを見上げ、私は溜息をつく。
誤魔化せるものではないし、隠すことでもないので正直に話そう。

「私の国の風習です。とあるおとぎ話があって、それに習ってこうした飾りを作るんです。
 今日が丁度その日だったんでまぁ、ちょっと・・・懐かしさ半分で作ってみてたの・・・よ。」


あ、なんか恥ずかしくなってきた。


視線を改めて飾りたちに戻す。
紙切れとこよりの山は色鮮やかに地面に転がっている。
今は昼過ぎ。十分飾りを作って、飾り終えてしまえる時間帯だ。
・・・作業が続行できればだけど。

・・・ジェイドさんから相槌も何もないというんだけど、コレいかに?

「あー・・・で、この木を飾って願い事を書いた紙を垂らすんです。
 コレでこの行事はおしまい! わぁ素敵!華やか!」

「へ、へい?」

唐突な呼びかけに問い返す。
こっぱずかしいのでその表情を窺うことはないが。

「コレは一人でこそこそやるものなんですか?」
「まさか。家族なり身内なり友達なり、はたまた学校のイベントで取り上げられるぐらいです。基本は数人で騒ぎながらやりますね。」
「それをあなたは一人でやっていたんですか?」

奇妙な質問に私は内心で首を傾げた。
んー? なんかジェイドさんらしくない質問だ。

「まぁ・・・そりゃ。同じ習慣を持たない人を誘ってどうするんですか。
 説明するのも面倒臭いですし。皆さんに暇があるとも限らないし。」

迷惑をかけるということに敏感になりすぎているような気もするけれど・・・


・・・あれ?
なんか、気温が低い・・・


感じた温度差にひょいと首を上へと向けると、ジェイドさんが普段と変わらない笑顔を浮かべて立っていた。
綺麗な赤い瞳が私を見下ろしている。
自慢じゃないが、私はこの瞳から彼の感情の片鱗を読み取ることには自信があった。


・・・えーと


その自信を風に流したい衝動に駆られる。
ちょっとまって、良く考えてみよう。
一度瞬きをしてもう一度見上げる。


・・・えーとぉぉ?


「・・・じぇいどさん?」


頭の中に浮かんだ感情の名前を即座に否定して問いかけると、ジェイドさんは眼鏡を指先で押し上げレンズの屈折でその瞳を隠した。

「邪魔をしましたね。」
「はぁ?」

突然の侘びに私は盛大に眉を顰める。
私が見上げている常人よりも数倍整っている顔は笑みの形を作るけれど、ソレが笑顔じゃないことぐらい私にだってわかる。

「どうぞ、郷愁を続けてください。」

にっこりと笑って言い放ち、ジェイドさんは踵を返した。



あら カッチーン



「コラ待て!その毒のある言い方は何!?」
「待ちません。」

体ごと向け直して制止しようとするがききやがらねぇ。
颯爽と去っていこうとする背中に私は叫ぶ。

「待たんかコラ!ジェイド!!」

久しぶりな呼び捨てにか、はたまた気まぐれか、怒声のすぐ後にジェイドさんはピタリと立ち止まった。
視線をこっちに向けもしないが。

だが足を止めた時点でこっちのものだ。
ざかざかと切り分けた紙などを一つの紙袋に丁寧に突っ込み、溜息を深く吐いて私はゆっくりと立ち上がる。
体についている埃を払いながらその隣に並ぶように歩いていく。

「ジェイドさん、暇ですよね?」
「いいえ。」
「私を追いかけてきたアナタにそんな発言の権利はありません。
 ハイがイエスで答えてください。」
「では敢えてノーと。」

私はその返答に思わず笑ってしまう。

何に機嫌を損ねたのかはわからないが、彼は彼のままだ。
頭一つ分をゆうに超える位置にある瞳を見つめて感じたことをそのまま吐く。

「英語、覚えてくれたんですね。」
「・・・」

とたん決まりが悪そうな顔をする。
その顔は、記憶に遠い少年の時と変わりはなかった。
少し痒い気もするけれど、その顔を見れたのだから許してやろう。
パーティー内の年長者に対しての無礼な思考だが、先に無礼なこと言ったのはこの人なので気にしない。

「郷愁の念は確かにありますよ。 あっちの世界は苦しいことばかりで死に掛けましたけど、それでも私はそこで生きていたんですから当然でしょう。」

紙袋の中から短冊を数枚取り出してジェイドさんの胸に押し付ける。

「そこで学んだことは今の私を生かしてくれているし、その経験がなければこうして皆と話せる事もなかった。それは断言します。
 だから尚更あの世界に思いを馳せることがあるんです。」

ポケットに突っ込まれたままの手を手首を掴んで引っ張り出し、無理矢理その腕に短冊を握らせる。
グローブ越しでもわかるその綺麗な造形の手にはむしろ呆れるぐらいだが、偏る思考に修正をかけて私は笑いながら見上げた。

「・・・意味、分からないなんて事はないですよね?」


あの場所に帰りたいという感情は、確かに私の中に存在する。
懐かしく疎ましく、汚くて絶望したけれど、それでも私はあそこで生きていたからだ。

私が帰りたがっている理由を目の前の彼は知っている。
それを嘲る気持ちはわかるから否定はしない。
だけど、それが変わってきていることもわかって欲しい。


「それに願い事を書いてください。
 そして書き終わったら私のところに持ってきてください。
 この枝を飾るのに使いますから。」
「・・・何故私がそんなことを?」
「一人でこっそり終わらせるつもりでしたけど、ジェイドさんに見つかったのなら巻き込ませていただきます。夢の少なそうな大人には先に宿題としてお渡しします。
 そしてせっかくなのでルークたちにもこの短冊を分けて、皆に書いてもらいます。
 晩御飯の時にでもおとぎ話は教えますよ。」

甘くて切ない?ラブストーリーだけどね。

「私だって一人が好きなわけじゃないですから。
 ではよろしくお願いしますねー」

言って私は宿へと向かうため踵を返して走り出した。








短冊にこよりを通す穴を空けていているは、とある一枚に思わずその手を止めた。

「・・・・・・・・・ジェイドさん。」

先に回収した短冊に書かれたえらく達筆なその文字の羅列を直視したまま、は隣に座る涼しげな男に話しかける。
少し離れた所にいるルークたちのはしゃぐ声が聞こえたがそれは意識してスルー。
その足元に飾りまみれになったチーグルがいたような気がしたが、それもスルーする。

「はい。なんですか。」
「・・・これ何語?」
「古代イスパニア語ですねぇ。」

こっちに見向きもしない男からの返答にはその肩を震わせる。

「―根性曲がりが!!」
「あなたには負けますよ。
 なんですかその『ひらがな』は。」

思わず叫んだにジェイドは盛大に突っ込んでくる。
彼が指し示すのは、私が書き終わった短冊だ。

「漢字を入れなかっただけありがたいと思いなさい。
 それは私の世界への短冊です!」
「・・・・・・そうですか。」
「そうですよ。」

読めない短冊に目打ちで穴を開けてそれをジェイドに突き返して、はまだ何も書かれていないそれらを持って立ち上がる。

「これ、ルーク達に渡してきますね。」

何か企むような笑顔を残し、は笹もどきを飾りつける少年達の下へと歩いていった。
残されたジェイドは短く、ほんの少しだけ溜息をつく。
ちらりと視線を流した先にあるのは、この世界には存在しない文字の羅列。
ぐずぐずと線が重ねられる『漢字』が使われていない文字達。

そしてもう一度溜息をつく。
はしゃぐ赤い頭たちに視線を移すと、彼らの前に立ったが短冊たるものの説明をしているところだった。

あの時、ジェイドが覚えた苛立ちの理由はわからない。
わかる物でもないけれど、それが今スッキリした理由はわかる。




『もうちょっと ここにいさせてください 




黄色い紙に書かれた一文。
それがどういう意味なのか、ジェイドは考える素振りだけして結局明確な答えは出さなかった。
その結論を導くことがどんな意味を持つのか知るはずも無かったけれど、本能か理性かが鳴らした警鐘に従い導こうとする演算を中断させる。

「ジェイドさん、皆書き終わったみたいですよ。
 いつまでも重い腰を据えてないで短冊を飾りましょう。」
「すみませーん。歳のせいかすっかり腕があがらなくて。」
「この間の戦闘の時に鳥型モンスターに槍ぶん投げた人が何を言いますか。
 飾るためにまだ笹っぽいのを倒したままなんですから早くしてください。」

自分の分の短冊を手にするを見やりつつ、ジェイドは何度目かの溜息をつく。

「結局巻き込むんですね。」
「きっかけをくれたのはジェイドさんじゃないですか。
 火薬は私ですが発破をかけたのはあなた自身です。
 諦めてバラされてください。彼らみたいに楽しむ心は大切ですよ。
 ・・・絵面が年齢的にイタイかもしれませんが♪」

、笑顔。

「本当にアナタは一言余計ですね。」
「一言だけだと思わないほうがいいと思います。
 この人格形成には私の暗い過去とジェイド君に遭遇した時の苦い経験と、ルーク達と知り合った時の世知辛い経験によると思います!」
「根本はアナタでしょう。」
「そうです。私は何があっても、どこにいても私です。
 そればっかりは星に祈ろうが天地がひっくり返ろうが変わりません。
 自信ありますよ。いつでも私はジェイドさんの戦意を喪失させることができる!」
「はっはっは 訳がわかりませんねー」

前を歩いていたが、その場で体を反転させる。



「要約すると、今回言いたいのは見つけてくれてありがとう、ですかね。」



それは雪山の話なのか、昼間の短冊作りの話なのか。
今は敢えて昼間のことであって欲しいと思うのは、ジェイドの勝手だろうか?







私を生かしてくれてありがとう世界。
私をこの人達に会わせてくれてありがとう異世界。
織姫、彦星がこっちの空にいるかどうかは知らないけれど。

ついでだからお願いを聞いて。

帰りたいけど、まだ別れたくはないの。













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2007/07/17

 七夕用に書いていて内容が不発になった小説
 ジェイドさんは主人公さんに少なからず執着を持っています。
 彼女は彼女で、ある意味ジェイドさんを特別な視点で見ています。恋心かどうかは別にして。
 ほんのりジェイド→主人公 かな?



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